・・・ など叫喚して手がつけられず、私なども、雑誌の小説が全文削除になったり、長篇の出版が不許可になったり、情報局の注意人物なのだそうで、本屋からの注文がぱったり無くなり、そのうちに二度も罹災して、いやもう、ひどいめにばかり遭いましたが、しかし、・・・ 太宰治 「返事」
・・・ 以下は、その日の、母子協力の口述筆記全文である。 ――玉のような子が生れました。男の子でした。城中は喜びに沸きかえりました。けれども産後のラプンツェルは、日一日と衰弱しました。国中の名医が寄り集り、さまざまに手をつくしてみましたが・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 客観すれば病的な、そういう苦しく、いとしい精神表現がたがいの癖となってしまっているとき、にわかにぱっと窓があいて、光線が一時にさしこんできたとき、火花のようだった符号を朗々とした全文に吐露しなおし、それを構成して、たちどころにそれをひ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・真柄さんは獄中の事実を書く時、生来の陽気性と親ゆずりの鈍感性のため、獄中生活が一生を左右する程のききめをもたなかったから、さも親しそうに監獄の生活について話せると云っておられるが、全文に微妙な神経質さ、嫌悪、その反動としての皮肉的語気が仄見・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・しかしこの二つの代表的な婦人の手による戦争反対の作品は、日本の文学史に全文をのせることさえはばかられていました。与謝野晶子の詩が発表されたとき大町桂月が非国民だと言って当時の『明星』を大批難しました。 最近の十数年間に、日本の婦人作家は・・・ 宮本百合子 「戦争と婦人作家」
漱石全集第十三巻のなかほどに「私の個人主義」という漱石の講演速記が収められている。大正三年と云えば、いまから三十六年もの昔、十一月のある日漱石が輔仁会で講演をした。その話の全文である。「私の個人主義」という講題の古めか・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・ 一篇の評論はその全文を、一冊の本はその全頁を通して読まれ理解されるのが自然だと思う。プロレタリア文学の伝承を忌避したがる一部の人々があるが今日力をつくして拒否すべきものは、文学運動までをああいう目にあわせた兇暴な治安維持法の変形した再・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学の存在」
・・・と戦争の野蛮に抗議した詩は、文学史の上にさえ全文を現わさなかった。日露戦争当時、晶子がこの作品を発表したことを憤って大町桂月が大抗議したことがあった。「変目伝」の作者広津柳浪は、当時の文学者としては西欧風の心理主義作家であったが、ある作品で・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫