・・・ただこの場合において一、二の注意を述べるなら、職能に関する読書はその部門の全般にわたる鳥瞰が欠くべからざるものであるが、そのあいだにもおのずと自分の特に関心し、選ぶ種目への集注的傾向が必要である。何事かを好み、傾くということがそのことへの愛・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 吾々の文学はプロレタリアートの全般的な仕事のうちの一分野である。吾々は、プロレタリアートの持つ、帝国主義××××の意志、思想を、感情にまで融合さし、それを力強く表現することによって、一般の労働者農民への、影響力を広く、確実にしなければ・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・私はいま仮にこの男の事を下等の芸術家と呼んでいるのでありますが、それは何も、この男ひとりを限って、下等と呼んでいるのでは無くして、芸術家全般がもとより下等のものであるから、この男も何やら著述をしているらしいその罰で、下等の仲間に無理矢理、参・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・少数者への教育を、全般へ施すなんて、ずいぶんむごいことだとも思われる。学校の修身と、世の中の掟と、すごく違っているのが、だんだん大きくなるにつれてわかって来た。学校の修身を絶対に守っていると、その人はばかを見る。変人と言われる。出世しないで・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・人間の能力がこれに比例して増進しない限りは、十人並の人間一生の間に物理学の全般にわたって一通りの知識だけでも得ようとするのはなかなか容易な事でなくなる。もし全般に通じようとすれば勢い浅薄に流れ、もし蘊奥を極めんとすれば勢い全般の事は分らずに・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ これと同じような傾向が日本の科学教育全般に行きわたっているのではないかと疑う。日本人が科学的頭脳において西洋人に必ずしも劣らないという自信を生徒の頭に植え付ける事もかなり大事な事ではないかと思う。 以上私の述べた事は少し乱暴に聞こ・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・り得るところが出来ると、もうすっかり思い上がって、冷静な第三者から見ればその人とは到底比較にならぬほど優れた他の学者のほんの少しの知識の不足を偶然に発見でもすると、それだけでもう自分がその相手に比して全般的に優ると思ったりするのは滔々として・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・ 「レーリーの仕事はほとんど物理学全般にわたっていて、何が専門であったかと聞かれると返答に困る。また理論家か実験家かと聞かれれば、そのおのおのであり、またすべてであったと答える外はない。」 「彼の論文を読むと、研究の結果の美しさに打・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・そはあたかも大正昭和の文化全般の西洋におけるものと異るところがない。我国の文化は今も昔と同じく他国文化の仮借に外ならないのである。唯仔細に研究し来って今と昔との間にやや差異のあるが如く思われるのは、仮借の方法と模倣の精神とに関して、一はあく・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・だからこれをもって彼らの使命の全般をつくしたとは申されない。前にも云う通りついでだから分化作用に即して彼らの使命の一端を挙げたのに過ぎんのである。したがって文学全体に渉っての御話をするときには今少し概括的に出て来なければならぬ訳です。これか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫