・・・どっちかに極めなくちゃあならないのだ。公民たるこっちとらが社会の安全を謀るか、それとも構わずに打ち遣って置くかだ。」 こんな風な事をもう少ししゃべった。そして物を言うと、胸が軽くなるように感じた。「実に己は義務を果すのだ」と腹の内で・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・社会の公民としては何等の位置も権力も無かったのである。渠等が幅を利かすは本屋や遊里や一つ仲間の遊民に対する場合だけであって、社会的には袋物屋さん下駄屋さん差配さんたるより外仕方が無かったのである。 斯ういう生活に能く熟している渠等文人は・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・仲買は公民権を失うような危険を冒さずに済むのである。 丁度この話の出来事のあった時、いつも女に追い掛けられているポルジイが、珍らしく自分の方から女に懸想していた。女色の趣味は生来解している。これは遺伝である。そこで目差す女が平凡な容貌で・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 一九〇一年、スイス滞在五年の後にチューリヒの公民権を得てやっと公職に就く資格が出来た。同窓の友グロスマンの周旋で特許局の技師となって、そこに一九〇二年から一九〇九年まで勤めていた。彼のような抽象に長じた理論家が極めて卑近な発明の審査を・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・オーストラリアは一八九二年婦人の公民権が認められた。第一次欧州大戦の終結した一九一八年、イギリスは人民代表法で婦人の参政権を認め、小さいけれども文化的に水準の高いノルウェイは、それより早い一九一三年に完全な婦人参政権を実現した。ソヴェト同盟・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・この頃いろいろなことで、女子が出ても、選挙の問題や婦人の問題ばかりでなく、刑法・民法のように、まだまだ差別のあることを御承知でしょうし、婦人は公民権をもっておりませんし、代議士になって、いろいろよい施策をやるとしても、いろいろな役割をするに・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・それから只今選挙がありますけれども、私達には公民権がない。だから私達はいろいろな行政機関のなかに役人として入ることができない。婦人がそこの機構のなかに入って働きますならば、配給の問題とか食糧の問題とかだいぶ実際的でよろしいのでしょうけれども・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・三十名ないし三十五名の放送委員は公民権を有する国民各層のなかから、最も適当な民主的方法をもって選出されるものとする。以上は放送委員会案の骨子であり、放送委員会は目下精力的に法案の作成に着手している。来る八月初旬に再び大規模の公聴会がひらかれ・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 世界の国々ではどこでも、婦人の政治的な成長の第一歩が常に公民権の獲得からはじめられていることは周知のとおりである。永井享氏の「婦人問題研究」によると、イギリスでは一八六九年に女子に公民権を認められ一九一八年の人民代表法で三十歳以上の婦・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ ソヴェト・ロシアにおいては、さっき三階の、ローザ・ルクセンブルグの肖像画のかかった室で、婦人党員が説明したように、実践をとおして獲得した女の公民権を十分に行使する者の率が年々素晴らしく増して来た。たとえば農村においてさえ、ソヴェト選挙・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫