・・・若しあすこの土地に人為上にもっと自由が許されていたならば、北海道の移住民は日本人という在来の典型に或る新しい寄与をしていたかも知れない。欧洲文明に於けるスカンディナヴィヤのような、又は北米の文明に於けるニュー・イングランドのような役目を果た・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・に入ったからだが、一つは当時の欧化熱が文芸を尊重する欧米の空気を注入して、政治家もまた靖献遺言的志士形気を脱してジスレリーやグラッドストーン、リットンやユーゴーらの操觚者と政治家とを一身に兼ぬる文明的典型を学ぶようになったからだ。政治家肌が・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・人間の可能性は例えばスタンダールがスタンダール自身の可能性即ちジュリアンやファブリスという主人公の、個人的情熱の可能性を追究することによって、人間いかに生くべきかという一つの典型にまで高め、ベリスム、ソレリアンなどという言葉すら生れたし、ま・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・どの価値がどの価値よりも高いかが個人差があることは現にハルトマンがあげている価値等級の典型的表解を見てさえも、われわれとは等級感が相異するのを見てもわかる。まして価値に高さと強さとの二次元を認める以上、高くても弱い価値と、低くても強い価値と・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・そしてキリストも日蓮も実はかかる性格者の典型であった。 その内心に私を蔵する者は予言者たり得ない。そのたましいに「天」を宿さぬものは予言者たり得ない。予言者は天意の代弁者であり、その権威に代わる者だからである。 その同時代と、大衆へ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・旦那芸の典型である。勝つか負けるかのおののきなどは、微塵もない。そうして、そののっぺら棒がご自慢らしいのだからおそれ入る。 どだい、この作家などは、思索が粗雑だし、教養はなし、ただ乱暴なだけで、そうして己れひとり得意でたまらず、文壇の片・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ エイゼンシュテインがいかなる程度にわが国の俳諧を理解してこう言っているかはわかりかねるが、日本人の目から見ても最もすぐれたモンタージュ芸術の典型として推すべきものはいわゆる俳諧連句そのものである。 ヤニングスとディートリヒの「青い・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・のいろいろな抽象的な典型が控えている。これは科学的対象以外のものに対しても適用されうるものであり、また実際にも使用されているものである。それを科学がわれわれに思い出させる事は決して珍しくも不思議でもないのである。もとよりそういう見方や考え方・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・あひるが陸へ上がってよちよち歩くときの格好は、およそ醜い歩行の姿の典型として引き合いに出るくらいであるが、こうしてその固有のおるべき環境にいるときの自然の姿はこのようにも美しく典雅なものである。固有でない環境に置かれれば錦繍でもきたなく、あ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・その結果を図示してみるとそれらの角度の統計的分布は明瞭に典型的な誤差曲線を示している。三十五匹のうち九匹はだいたい東西に走る電線に対してその尻を南へ十度ひねって止まっている。この最大頻度の方向から左右へ各三十度の範囲内にあるものが十九匹であ・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
出典:青空文庫