・・・ 世界には、現在のところ、興味ある民主社会の三つの典型が並びあって生活している。朝鮮、中国や日本のように漸々と、封建的なのこりものをすてて近代民主化を完成しようと一歩ふみ出した国。アメリカ、イギリスのように資本主義の下での民主主義を完成・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・その人が自分の社会的・階級的人生を発見したからこそ、そこにおこるすべてのことの人間らしい美醜、悲喜の歴史的意味を知り、自分をもある時代の階級的人間の一典型として、客観的に描き出してゆく歓喜を理解するのである。 わたしたちの人生と文学の偶・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・階級社会の力が面と面とをむけて格闘する革命の現実のうちにこそ、その革命の時代の最も典型的な諸事件と諸性格とがある。小市民的な日常と「個性」のうまやにとじこめられていた人類の伸びようとする精神は、二十世紀はじめのフランスのデガダニストたちのよ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・こんにちの歴史の下では、単にロシア国内の事情というにとどまらず、世界の人民の業績の一つの典型として感じとられるこれらの印象記や報告が一冊の本にまとまって出ることはうれしい。 発表当時、会話が棒ではじまっていたり、くせのあるてにをはがつか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『モスクワ印象記』)」
・・・日本の近代文学における散文の伝統というようなものが将来注目されるなら、秋声はまぎれもなく一つの典型として不動の地位にある。一応文学趣味を今日も満足させている芥川龍之介の散文が、教養的であっても、極めて脆い体質をそなえていることなどと著しい対・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・を観て、この映画の芸術的現実の中から人間再出発の新しい典型を見ることは困難であった。監督アウグスト・ジェニーナは人間再出発の自然的条件として沙漠というものを実に根気よく繰り返し繰り返し見せている。映画の手法、映画の持っている便利なテンポを全・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・そして、世界文化のなかにあっても特殊に優雅である日本文化の典型として茶の湯、生花、能楽、造園、日本人形や日本服があげられる。 外国の人も日本文化の特長を手早くとりまとめようとするとき、こういう特長をとらえたことは、卑俗な日本の輸出品が、・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・鴎外が、当時の江戸の庶民生活のありようの一典型として喜助のめぐり会わせを追究していないとこも、一方には注目される。作者を動かしたつよいモティーヴの一つであるユウタナジイの問題にしろ、同じ事情が武士の兄弟の間におこったとしたら、当時の通念はそ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・この短い伝記の中に、鴎外にとって好ましい女の或る精神的な魅力の典型の一つを語っているらしいところも面白い。最後に、鴎外は、外見には労苦の連続であった「お佐代さんが奢侈を解せぬ程おろかであったとは誰も信ずることが出来ない。また物質的にも、精神・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・検事の論告は暁子が母性を失っている、母たる資格を持たぬ女であると云う事から二年を求刑し、母性の典型として山本有三氏の小説「女の一生」を例に引きました。公判廷で検事が文学作品を例に論告を進めたと云う事は珍しい事で、人間らしい潤いを公判廷に与え・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
出典:青空文庫