・・・我輩窃かに案ずるに、かの伊奘諾尊、伊奘冊尊、またはアダム、イーブの如きも、必ずこの夫婦の徳義を修めて幸福円満なりしことならんと信ずるのみ。 されば人生の道徳は夫婦の間に始まり、夫婦以前道徳なく、夫婦以後始めてその要を感ずることなれば、こ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・免かるべからざるところなれば、その心事を推察するに、時としては目下の富貴に安んじて安楽豪奢余念なき折柄、また時としては旧時の惨状を懐うて慙愧の念を催おし、一喜一憂一哀一楽、来往常ならずして身を終るまで円満の安心快楽はあるべからざることならん・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・例えば親子間の愛――この世にたった一つしかないいきさつですらも、どれだけ円満にいっていましょう。愛と平和――それは今の経済学、哲学とかの学問で説明したり、解剖したりする論理としての論理でなく、皆の分かり切った常識として、人間の生活に自由なも・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・けれども、このR氏夫妻のみならず、真個におのおのの業務に対する明確な責任感と、家庭人としての良心が円満な調和を保っている処では、何処にもこれに似た秩序の正しさと、健康な活動が在るように思われます。 勿論、人間の生活が徒に秩序正しいので完・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・それでもやっぱり離れ切りもしないでこう円満に納まるんだから」「喧嘩して却ってよくなったのかもしれない」「そんなことよ。喧嘩せざる藍子、喧嘩せる黒川に美枝子を奪わる」 藍子は暫く黙っていたが、「洒落てるな。私もどっかへ行きたく・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・家庭を円満に治めるためにも、男子の手足まといになりすぎる程物の道理が判らなくても困るが、余りはっきりしすぎて男が煙たいほどでも亦困る、と。その基準で、いわゆる家事科目を中心とした、女子教育の基準が決定されたのであった。これが今日まで女子教育・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・塵よりいでて塵に返る有限の人の身に光明に充つる霊を宿し、肉と霊との円満なる調和を見る時羽なき二足獣は、威厳ある「人」に進化する。肉は袋であり霊は珠玉である。袋が水に投げらるる時は珠もともに沈まねばならぬ。されど袋が土に汚れ岩に破らるるとも珠・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫