・・・人間の頭の働き方はやはり天然現象に似た非再起的なトランシェントな経過をとる場合が多い。数学のような論理的な連鎖を追究する場合ですらも、漠然とした予想の霧の中から正しい真を抽出するには、やはりとぎすました解剖刀のねらいすました早わざが必要であ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
新玉の春は来ても忘れられないのは去年の東北地方凶作の悲惨事である。これに対しては出来るだけの応急救済法を講じなければならないことは勿論であるが、同時にまた将来いつかは必ず何度となく再起するにきまっているこの凶変に備えるよう・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・通例こういう場合には「事がらが再起的 reproducible でないから」という口実で、惜しげもなく放棄されて来たのである。なるほど従来の再起的という言葉はいわゆるデテルミニスティックな意味での再起性を意味するものであるから、そういわれる・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・ そういう種類の現象で自分が多年心にかけていたものがいろいろあるが、それらの多数はいずれも事がらが偶然的偏差に支配されるために、結果が決定的再起的でないような種類に属するものである。たとえばガラス板を平坦な台の上に置いて上から鉄の球を落・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・の確立の問題は、それが、マルクス主義に打ちあたってのちのブルジョア・インテリゲンチアの間に再起した個への還元の問題として、大きい社会的内容を私どもに印象づけるのである。「紋章」については多数の人々がさまざまにそれを突いていた。その批評に・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・彼女は、決然とそれに対し、男が父親であるとともに自由に邪魔されず仕事を持ち続ける通り女性も母であると同時に家庭生活に煩わされず自分の仕事を継続し得るべきものと云う理想の為に、再起したのでした。 彼女は自分を来るべき女性の時代に先立つ一人・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫