・・・勿論台本がああなっていたのだろうが、前半の写実風を一貫させるなら、深草少将の身代りに、口惜しさのあまり「そなたと契ろうよ」とかなり正面から哀切にゆき、身代りがあわてふためき覆面をかなぐりすて、「やつがれは六十路を越したる爺にて候」と・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・しかも芸術作品として彼女のそれらの製作を傑出させているのは、ケーテの確かで深い現実観察からもたらされた写実的な手法である事実は、私たちに多く考えさせるものを持っている。ケーテが民衆の生活を描く画家として属していた歴史の世代が、ドイツにおける・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・目次のゲラをみると、これまでの既成文学史と同様に、写実主義時代、浪漫主義時代、自然主義時代と順を追って、プロレタリア文学、モダニズムとすすんでいる。こういうわけ方は、東京堂出版の「日本文学史」や改造社の「文学全集」でもやったことである。写実・・・ 宮本百合子 「「現代日本小説大系」刊行委員会への希望」
・・・を上演した写実劇場は新しく「勇敢な兵士シュヴェイクの冒険」を脚色上演しはじめた。 これは、元オーストリア軍隊内の野蛮な腐敗とを諷刺的に描き出したチェッコ・スロヴァキアの作品である。 多くの移動劇団、或は「生きた新聞」は身振狂言で帝国・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・感性のことはやはり究極は見かたの問題だし、人を動かす作品の力がただ写実では足りなく、ロマンチックな要素がいるというAさんの見解もロマンチックというだけではずっているし、時間があったら一寸した作家としての経験を土台としてこのことをも書いて見た・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・従って彼らは、いかなる描き方をする場合にも、写実的な態度を失わない。 しかし日本画はそうでない。そこに描かれるのは主として画家の想像である、幻想である。歴史的題材を取り扱う画において、特にこの傾向は著しい。人物を描けば、我々の目前に生き・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ この画で問題になるのは、それが写生でありながら実は写実でない事である。といって自分は、この画に塗り残されたところが多いことをさすのではない。塗り残された未完成の画の示唆的なおもしろさ、それを巧妙に生かすのは日本画の伝統の著しい特徴であ・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ 埴輪人形の稚拙さについて第二に注目すべき点は、この造形が必ずしも人体を写実的に現わそうなどと目ざしていないという点である。それは埴輪の円筒形に「意味ある形」をくっつけただけであって、埴輪本来の円筒形を人体に改造しようとしたのではない。・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・そのためか、先生の作物に写実味の乏しいことは、さほど気にならない。 私は先生の芸術に著しいイデエを認める。一の作物の結構はすべてそのイデエから出ているように思う。この意味で先生の作物はかなり「作られた」という感じの強いものである。しかし・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・、「装飾」、「写実」等の考え方についても、一言付加しておく必要を感ずる。岸田君が内なる美の直接に現わされたものを装飾とし、自然に触発せられて現わされたものを写実とする見方は、きわめて興味の深いものである。ことに写実の「実」について、自然の「・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫