・・・という冠詞をつけて呼ばねばならなくなるのである。 この論者の誤謬は、自然主義発生当時に立帰って考えればいっそう明瞭である。自然主義と称えらるる自己否定的の傾向は、誰も知るごとく日露戦争以後において初めて徐々に起ってきたものであるにかかわ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・その時、まず冠詞というものの「存在理由」がはなはだしく不可解なものに思われた。Theが、至るところ文章の始めごとに繰り返されて出現する事が奇妙に強い印象を与えた事を記憶する。自分の手のことを「持つ」というのもおかしかったが、これが「手を」の・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・私はその先生の前で詩を読ませられたり文章を読ませられたり、作文を作って、冠詞が落ちていると云って叱られたり、発音が間違っていると怒られたりしました。試験にはウォーズウォースは何年に生れて何年に死んだとか、シェクスピヤのフォリオは幾通りあるか・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・そこには冠詞がいりますね」「――DER?」「そうです。――ではこの文句をすっかり裏から云ったらどうなります。――彼が植物園へ行くことをしなかったなら、こうであったろうと云う風に……」 稽古も終りかけで、応用作文を藍子が帳面へ書い・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫