・・・また、このものは誰かということも、誰も知ることなど出来る筈はない。合理がこれを動かすのか、非合理がこれを動かすのかそれさえ分らぬ。ただ分っていることは、人人は神を信じるか、それとも自分の頭を信じるかという難問のうちの、一つを選ぶ能力に頼るだ・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・その殿様というのはエラソウで、なかなか傲然と構えたお方で、お目通りが出来るどころではなく、御門をお通りになる度ごとに徳蔵おじが「こわいから隠れていろ」といい/\しましたから、僕は急いで、木の蔭やなんかへかくれるんです。ですがその奥さまという・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・自分にだってそれは出来る、ただそれを実現していないだけだ、――すべての事に対してそういう気持ちがあった。 無批評に自分の尊貴を許すということは、自分の内に蟠っている多くの性質の間の関係をことごとく変化せしめた。これまでは調和がとれていた・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫