・・・意気込の凄まじいのと態度の物々しいのとに呑まれて、聴かされたものは大抵巧いもんだと出鱈目を感服したので、とうとう椿岳は琵琶の名人という事になった。椿岳は諸芸に通じていたに違いないが、中にはこういう人を喰った芸も多かった。 椿岳の山門生活・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・二葉亭も一つの文章論としては随分思切った放胆な議論をしていたが、率ざ自分が筆を執る段となると仮名遣いから手爾於波、漢字の正訛、熟語の撰択、若い文人が好い加減に創作した出鱈目の造語の詮索から句読の末までを一々精究して際限なく気にしていた。・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ ――もともと出鱈目と駄法螺をもって、信条としている彼の言ゆえ、信ずるに足りないが、その言うところによれば、彼の祖父は代々鎗一筋の家柄で、備前岡山の城主水野侯に仕えていた。 彼の五代の祖、川那子満右衛門の代にこんなことがあった……。・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
火遁巻 千曲川に河童が棲んでいた昔の話である。 この河童の尻が、数え年二百歳か三百歳という未だうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙人で狐狸かためた新手村では、信州にかくれもなき怪しげな年中行事が行われ、毎年大晦日の夜・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・という題も、思えばまるで見当ちがいの出鱈目なものではなかったかも知れない。しかし、前書はもうこれくらいで充分であろう。 ある罹災者の話である。名前はかりに他三郎として置こう。そして私の好みに従って、他アやんと呼ぶことにする。 他アや・・・ 織田作之助 「起ち上る大阪」
・・・女房の尻に敷かれる人はかえって出世するものだ、と母が言った言葉は出鱈目だろうか。それともあの人はちっとも私の尻に敷かれていないのだろうか。ともかくあの人は、会社の年に二回の恒例昇給にも取り残されることがしばしばなのだ。あの人の社には帝大出の・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・……いかにも君らしいね。出鱈目をよく教える……」「なんだ、なんだ」「狐の剃刀とか雀の鉄砲とか、いい加減なことをよく言うぜ」「なんだ、その植物ならほんとうにあるんだよ」「顔が赤いよ」「不愉快だよ。夢の事実で現実の人間を云々・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・併し此代稽古の男は兎角自分に出鱈目を教える男だったから、それに罵られたのが残念で残念で堪らなかった為め忘れずに居ります。 九歳のとき彼のお千代さんという方が女子師範学校の教師になられたそうで、手習いは御教えにならぬことになりました。で、・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・まして人間の指で書くような出鱈目の曲線は何千万状あるか知れるものではない。このくらい曲線という奴は洒落た奴だよ。だから二力が互に異りたる曲線的に来てぶつかる時は、又何千万様の変化を起すか知れないのサ。ここが即ちおもしろい所だ。ここから天地万・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・という名前も、三男がひとりで考案して得意らしく、表紙も、その三男が画いたのですけれども、シュウル式の出鱈目のもので、銀粉をやたらに使用した、わからない絵でありました。長兄は、創刊号に随筆を発表しました。「めし」という題で、長兄が、それを・・・ 太宰治 「兄たち」
出典:青空文庫