・・・は、階級的意識によって分析批判されていない。けれども、こんにち日本がやっと人民の権利という文字をその中にふくんだ憲法をもつようになり、男女の人間的な対等が理解されて来たとき、四分の一世紀も前にかかれた「伸子」がこれまでになく広汎な各層の読者・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ しかも、暴露の材料一々の具体性が分析される。従って対象と主体の置かれている一定の時代、階級というものを無視することは絶対に不可能である。 諷刺は攻撃的だ。率直だ。動的で、生活的だ。 活溌な闘争にしたがう世界のプロレタリアートは・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・文章を分析して細かい事を云う。私はそんな時に始て聞く術語に出くわして驚くことがある。しかし君の書いたドイツ文には漢学者の謂う和習がある。ドイツ人ならばそうは云わぬと、私が指してきする。君が服せぬと、私は旅中にも持っている Reclam 版の・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・それを分析したら、怪訝が五分に厭嫌が五分であろう。秋水のかたり物に拍手した私は女の理解する人間であったのに、猪口の手を引いた私は、忽ち女の理解すること能わざる人間となったのである。 私ははっと思って、一旦引いた手を又出した。そして注がれ・・・ 森鴎外 「余興」
・・・先ず少くとも一応は客観的形式なるものの範疇を分析し、主観的形式の範疇分析をした結果の二形式の内容の交渉作用まで論究して行かねばならなくなる。ただそれのみの完成にても芸術上に於ける一大基礎概念の整頓であり、芸術上に於ける根本的革命の誕生報告と・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・夢ばかりを分析していた。逢うと夢の話をしていた。すると、死んで了った。 夢の話 夢の話と云うものは、一人がすると、他の者が必ずしたくなる。すると、前に話した者は必ず退屈し出すのだ。何ぜかと云えば、それは夢にすぎないから・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
・・・卓の上には分析に使う硝子瓶がある。六分儀がある。古い顕微鏡がある。自然学の趣味もあるという事が分かる。家具は、部屋の隅に煖炉が一つ据えてあって、その側に寝台があるばかりである。「心持の好さそうな住まいだね。」「ええ。」「冬になっ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ 真実の自己は、意識的に分析する事の出来ないものである。それは様々な本能から成り立っているが、しかし確然とその本能の数をいうことは出来ぬ。これらの多様なる本能が統一せられた所に個性がある。従って個性もまた明確に認識せられ得るはずのもので・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・しかしその時のことを客観的に描写し、それを分析したり批判したりすることができたということは、漱石が決して意識の常態を失っていなかった証拠である。それを精神病と見てしまうのは、いくらか責任回避のきらいがある。一体にこの『漱石の思い出』は、漱石・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・これらの演劇形態について詳しい知識を有する人が、一々の動作の仕方を細かく分析し比較したならば、そこにこれらの芸術の最も深い秘密が開示せられはしまいかと思われる。 一、二の例をあげれば、人形使いが人形の構造そのものによって最も強く把握して・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫