・・・事実また、外曾祖父の遺物中には馬琴の外は刊本にも写本にも小説は一冊もなかった。ただ馬琴の作は上記以外自ら謄写したものが二、三種あった。刊本では、『夢想兵衛』と『八犬伝』とがあった。畢竟するに戯作が好きではなかったが、馬琴に限って愛読して筆写・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 私の長兄も次兄も三兄もたいへん小説が好きで、暑中休暇に東京のそれぞれの学校から田舎の生家に帰って来る時、さまざまの新刊本を持参し、そうして夏の夜、何やら文学論みたいなものをたたかわしていた。 久保万、吉井勇、菊池寛、里見、谷崎、芥・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・ 先日、或る外国の新刊本をひらいてみたら、僕の友人の写真が出ているのを見て、おどろいた。日本の代表的な思想家という説明文が附いていて、その友人は、八つ手の傍で胸を張って堂々と構えていた。僕は、この友人と酒を飲んで「おまえは馬鹿だよ」と言・・・ 太宰治 「世界的」
・・・ 主人は、本やというよりもむしろ呉服屋の年功経た番頭というような云いかたで、新刊本の棚の前に、一冊の本を半分投げてよこした。十八年度最終の出版整備が公表されて程なくのことである。 今日の本やの気分というものを犇と感じつつ見ると「青眉・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
出典:青空文庫