・・・ 机や椅子の足は何も四本でなくても三本でちゃんと役に立つ、のみならず四本にするとどれか一本は遊んでいて安定位置が不確定になる恐れがあるというのは物理学初歩で教わることである。しかしその合理的な三本足よりも不合理な四本足が最も普通に行なわ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・でない子がわざとなんだか落着かないような様子をして天井を仰いでみたり鼻をこすってみたりして牽制しようとするなどはきわめて初歩であるので、その裏をかくつもりで「狸」自身がわざとそのような振りをすることもある。これを仮に第二次の作戦とすると、そ・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・小学校で地理とか数学とか、事によったら、以前の小学制度で、高等科に英語の初歩位学んだ事がありはしまいか。けれども、江戸伝来の趣味性は九州の足軽風情が経営した俗悪蕪雑な「明治」と一致する事が出来ず、家産を失うと共に盲目になった。そして栄華の昔・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・百年の経験を十年で上滑りもせずやりとげようとするならば年限が十分一に縮まるだけわが活力は十倍に増さなければならんのは算術の初歩を心得たものさえ容易く首肯するところである。これは学問を例に御話をするのが一番早分りである。西洋の新らしい説などを・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・その釣りの初歩のころ、やたらに河豚がかかるのであきれたものである。河豚は水面と海底との中間を泳いでいるし、食い意地が張っているので、エサをつけた糸をたらすとすぐに食いつく。しかし、ほんとうにおいしい河豚は、海底深くいる底河豚だ。河豚は一枚歯・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・ わずかに医学の初歩を学び得るときは、あるいは官途に奉職し、あるいは開業して病家に奔走し、奉職、開業、必ずしも医士の本意に非ざるも、糊口の道なきをいかんせん。口を糊せんとすれば、学を脩むるの閑なし、学を脩めんとすれば、口を糊するを得ず。・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・第二、読本 もっとも易き文章にて諸学の手引、初歩ともなるべき事を説き、あるいは『モラルカラッスブック』などとて、脩心学の入門を記したる小冊子も、読本の内にあり。たいてい絵入りなり。この時また文法書を学ぶ。文法を知らざれば、書・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・わずかに地理歴史の初歩を読むも、その心事はすでに旧套を脱却して高尚ならざるを得ず。いわんや彼の西洋諸大家の理論書を窺い、有形の物理より無形の人事に至るまで、逐一これを比較分解して、事々物々の原因と結果とを探索するにおいてをや。読てその奥に至・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・科業は、いろは五十韻より用文章等の手習、九々の数、加減乗除、比例等の算術にいたり、句読は、府県名・国尽・翻訳の地理・窮理書・経済書の初歩等を授け、あるいは訳書の不足する所はしばらく漢書をもって補い、習字・算術・句読・暗誦、おのおの等を分ち、・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・社中に入り、先ず西洋のいろはを覚え、理学初歩か、または文法書を読む。この間、三ヶ月を費す。三ヶ月終りて、地理書または窮理書一冊を読む。この間、六ヶ月を費す。六ヶ月終りて、歴史一冊を読む。この間、また、六ヶ月を費す。・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
出典:青空文庫