・・・化学、天文学、医学、数学なども、その歴史の初頭においては魔法と関係を有しているといって宜しかろう。 従って魔法を分類したならば、哲学くさい幽玄高遠なものから、手づまのような卑小浅陋なものまで、何程の種類と段階とがあるか知れない。 で・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・二十世紀の初頭、イギリスでヴィクトリア女皇の治世時代、いわゆるヴィクトーリアンの風俗が、女らしさの点でどんなに窮屈滑稽、そして女にとって悲しいものであったかということは、沢山の小説が描き出しているばかりでなく、今日ヴィクトーリアンという言葉・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・そして、こんにち商業新聞の頁の上に、昭和初頭と同じように講談社、主婦之友出版雑誌の大広告を見るとき、この評論集におさめられている「婦人雑誌の問題」の本質が、更に複雑な隷属の要因を加えて、わたしたちのこんにちの文化問題であることを知る。「今日・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ フランス人にとってアフリカは貴重な天然資源の植民地であると同時に、十九世紀の初頭からロマンティックな脱出地であった。そのことはアナトール・フランスやジイドの文学を見ただけでも明かである。デイトリッヒとボアイエとが演じた「沙漠の花園」は・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 大体、大正初頭、鴎外が歴史小説に手を染めはじめた時分から数年間、日本の文学に歴史的な材料を扱った作品が多くあらわれた。そして、それが、各々の作家たちを新しい道に押し出し或は文学に初登場させたばかりでなく、それから後につづく十年の間にそ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ こういう一事でもわかるように、大正初頭の女学校の気風は、本当に保守的であったし、個性の特色をよろこばなかった。私の卒業した官立の女学校は、所謂品のよい、出来のよい画一にはめこまれていて、個性のつよさを愛さなかったから、当時の女学生とし・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・ こういう特色をもった十九世紀初頭のライン州、トリエルの市にハインリッヒ・マルクスという上告裁判所付弁護士が住んでいた。そこに、一八一八年五月五日、一人の骨組のしっかりした男の子が産れ、カールと名付けられた。 マルクス家はユダヤ系で・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・イギリスの十九世紀初頭の詩人画家であったウィリアム・ブレークが、独特な水色や紅の彩色で森厳に描いた人格化された天の神秘的な版画も、宇宙に向ってのロマンティックな一種の絵として面白いものだったと思う。 岩波新書で出ている中谷宇吉郎氏の「雪・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・明治から大正初頭にかけて、日本の知性の確立を欲することの熱烈であった作家の一人夏目漱石も、イギリスへ行ってからはとくに個々人の見識、人格としてそれをはっきり主張した。しかし、支配権力の歴史的な性格が、国の文化と知性との基盤にあって、どう作用・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・現代でいえば一つの都市ぐらいしかなかった十九世紀初頭のドイツ小王国ワイマールの学友宰相であったゲーテは、その時代の性格とその政治生活の規模にしたがって、何と素朴だったろう。そして何と「宮廷詩人」的であったろう。ナチスが、ゲーテ崇拝を流行させ・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
出典:青空文庫