・・・はあてな、別嬪二人二千石、功名々々。(繻子の洋傘白糸 御免なさい。これよりさき、撫子、膳、風呂敷など台所へ。欣弥は一室に入り、撫子、通盆を持って斉しく入る。その はい。白糸 (じろりと、その髪容を視村越さんのお住居は・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・ ざらざらと水が響くと、――身投げだ――――別嬪だ――――身投げだ―― と戸外を喚いて人が駆けた。 この騒ぎは――さあ、それから多日、四方、隣国、八方へ、大波を打ったろうが、――三年の間、かたい慎み―・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・……後妻はどうしても若くもあるし、……あなたも私とあのようになっていたら、今ごろは若い別嬪の後妻が貰えてよかったんでしょうに」「そうしたもんかもしれんな。してみると老父へも同情しなければ……。俺はいっこうばかだから、そうしたことさえお前・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・小学校の同僚もなんぞと言えばどこの娘は別嬪だとか、あの娘にはもう色があるとか、そんな噂をするのは平気で、全くそれが一ツの楽しみなのですから、私もいつかその風に染みまして村の娘にからかって見たい気も時々起したのでございます。さすが母の戒めがあ・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・もし己が年が若くって、娘が今少し別嬪で、それでこういう幕を演ずると、おもしろい小説ができるんだなどと、とりとめもないことを種々に考える。聯想は聯想を生んで、その身のいたずらに青年時代を浪費してしまったことや、恋人で娶った細君の老いてしまった・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・どを不思議そうに話し出すと、主人は大に軽蔑した口調で「そりゃ当り前でさあ、皆んなあすこへ行く時にゃ案内記を読んで出掛けるんでさあ、そのくらいの事を知ってたって何も驚くにゃあたらないでしょう、何すこぶる別嬪だって?――倫敦にゃだいぶ別嬪がいま・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
出典:青空文庫