・・・ 奇妙な別離「魂と魂との結合が完きものであったときには、この美しい感情の極致を傷けるいかなるものも致命的なのだ。悪党どもなら匕首を振った後に仲直りするような場合にも、愛する者同志は、ただ一瞥一語のためにも仲をた・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・「矢車草」「芽生え」の林米子のために新しい生活と文学の道を照し出した。「雨靴」石井ふじ子、「乳房」小林ひさえ、「蕗のとう」「あらし」山代巴、「遺族」「別離の賦」「娘の恋」竹本員子、「流れ」宮原栄、「死なない蛸」「朝鮮ヤキ」譲原昌子。その・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ゴーリキイは、この別離から深い哀愁をうけた。「また会おう、友達!」 そう云って別れたロマーシとゴーリキイが再会したのはそれから十五年後、ロマーシが「民衆の意志」党の事件でヤクーツクで更に十年の流刑を終ってからのことであった。 秋・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・記章にはおれが秘蔵のこの匕首(これにはおれの精神匕首を残せば和女もこれで煩悩の羈をばのう……なみだは無益ぞ』と日ごろからこの身はわれながら雄々しくしているに、今日ばかりはいかにしてこう胸が立ち騒ぐか。別離の時のお言葉は耳にとまって……抜き離・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・私を失ったためよりも、私の別離が凶兆として響いたために。――こう私は考える。私は薄情であった。そうしてただ一つの薄情でも、人生のはかなさを思わせるには十分であった。彼らの鼻っぱしの強い誇り心は恐らくこの事実を認めまいとするだろうが、彼らの認・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫