・・・川続きであるから多く利根の方から隅田川へ入り込んで来る、意外に遠い北や東の国のものである。春から秋へかけては総ての漁猟の季節であるから、猶更左様いう東京からは東北の地方のものが来て働いて居る。 又其の上に海の方――羽田あたりからも隅田川・・・ 幸田露伴 「夜の隅田川」
・・・国府台に行って、利根を渡って、東郊をそぞろあるきするのも好い。 端午の節句――要垣の赤い新芽の出た細い巷路を行くと、ハタハタと五月鯉の風に動く音がする。これを聞くと、始めて初夏という感を深く感ずる。雨の降頻る中に、さまさまの色をした緑を・・・ 田山花袋 「新茶のかおり」
・・・の中で、まことに根気よく、水彩画のように利根川べりの自然を描写している。「田舎教師」をよむと、写生文の運動というものが日本の文学の発展のために益した点がわかる。少くとも自然を描こうとする感情の中から余計な支那的誇張、風流の定型、哲学的衒学を・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 第二は、利根すぎたる大将である。利害打算にはきわめて鋭敏であるが、賢でも剛でもない。「大略がさつなるをもつて、をごりやすうして、めりやすし」。好運の時には踏んぞりかえるが、不幸に逢うとしおれてしまう。口先では体裁のよいことをいうが、勘・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫