・・・この要求を致しますのに、わたくしの方で対等以上の利益を有しているとは申されますまい。わたくしも立会人を連れて参りませんから、あなたもお連にならないように希望いたします。ついでながら申しますが、この事件について、前以て問題の男に打明ける必要は・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
人間は、これまでものをいうことのできない動物に対して、彼等の世界を知ろうとするよりは、むしろ功利的にこれを利用するということのみ考えて来ました。言い換えれば、利益を中心にこれ等の動物を見、また取扱って来たのです。こうしたところには、彼・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・ちょうどそのころ、この二つの国は、なにかの利益問題から、戦争を始めました。そうしますと、これまで毎日、仲むつまじく、暮らしていた二人は、敵、味方の間柄になったのです。それがいかにも、不思議なことに思われました。「さあ、おまえさんと私は今・・・ 小川未明 「野ばら」
・・・ この人殺の外に、何ぞおれは戦争の利益になった事があるか? 人殺し、人殺の大罪人……それは何奴? ああ情ない、此おれだ! そうそう、おれが従軍しようと思立った時、母もマリヤも止めはしなかったが、泣いたっけ。何がさて空想で眩んでいた此・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・あの明確な頭脳の、旺盛な精力の、如何なる運命をも肯定して驀地らに未来の目標に向って突進しようという勇敢な人道主義者――、常に異常な注意力と打算力とを以て自己の周囲を視廻し、そして自己に不利益と見えたものは天上の星と雖も除き去らずには措かぬと・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・しかるに今日においては国法は男子の利益においてきめられ社会は母性と、産児と、未亡人とを保護しない。妊娠すれば職を失わなくてはならぬ有様である。しかも共稼ぎしなくては子どもを養育できない。男子は独立して妻子を養い得ぬのが普通となり、といって婦・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・県会議員が、当選したあかつきには、百姓の利益を計ってやる、というような口上には、彼等はさんざんだまされて来た。うまい口上を並べて自分に投票させ、その揚句、議員である地位を利用して、自分が無茶な儲けをするばかりであることを、百姓達は、何十日と・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・ ロシア人を撃退したところで自分達には何等の利益もありはしないのだ。 彼等は、たまらなく憂欝になった。彼等をシベリアへよこした者は、彼等がこういう風に雪の上で死ぬことを知りつつ見す見すよこしたのだ。炬たつに、ぬくぬくと寝そべって、いい雪・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・勿論あれが同じあのようなものにしても生硬粗雑で言葉づかいも何もこなれて居ないものでありましたならば、後の同路を辿るものに取って障礙となるとも利益とはなっていなかったでしょうが、立意は新鮮で、用意は周到であった其一段が甚だ宜しくって腐気と厭味・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・食色の慾が足り、少しの閑暇があり、利益や権力の慾火は断えず燃ゆるにしてもそれが世態漸く安固ならんとする傾を示して来て、そうむやみに修羅心に任せてもがきまわることも無効ならんとする勢の見ゆる時において、どうして趣味の慾が頭を擡げずにいよう。い・・・ 幸田露伴 「骨董」
出典:青空文庫