・・・がかりなものが、いつかはまた繰返されるであろう。その時にはまた日本の多くの大都市が大規模な地震の活動によって将棋倒しに倒される「非常時」が到来するはずである。それはいつだかは分からないが、来ることは来るというだけは確かである。今からその時に・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・それが少しひどくなって来ると、自分が何かしらもっと積極的な悪事を犯していて、今にもその応報を受けるべき時節が到来しそうな心持ちになる。これがもう一歩進むと立派な精神病になるのだが幸いにそこまでにはならない。そうしてこういう時はちょっと風呂に・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・がどうも分らないが、しかしその前々夜であったかやはり食後の雑談中女中にある到来ものの珍しい菓子を特に指定して持って来させたことはあったのである。 麻糸の簾がライオンになる件だけは解釈の糸口が見付からない。こんなのをうっかりフロイドにでも・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
・・・ 要するに、従来のいわゆる統計物理学は物理学の一方の庇を借りた寄生物であったのであるが、今ではこの店子に主家を明け渡す時節が到来しつつあるのではないか。ほんとうの新統計的物理学はこれから始まるべきではないか。これはもちろん筆者のはなはだ・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・家厳が力をつくして育し得たる令息は、篤実一偏、ただ命これしたがう、この子は未だ鳥目の勘定だも知らずなどと、陽に憂てその実は得意話の最中に、若旦那のお払いとて貸座敷より書附の到来したる例は、世間に珍しからず。 人の智恵は、善悪にかかわらず・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・一応もっとも至極の説なれども、田舎の叔母より楷書の手紙到来したることなし、干鰯の仕切に楷書を見たることなし、世間日用の文書は、悪筆にても骨なしにても、草書ばかりを用うるをいかんせん。しかのみならず、大根の文字は俗なるゆえ、これに代るに蘿蔔の・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・否な、徒に其時節到来を待つに非ず、天下有志の善男善女が躬践実行して実例を示し、以て其時節を作らんこと、我輩の希望し勧告する所なり。一 女子の結婚は男子に等しく、他家に嫁するあり、実家に居て壻養子するあり、或は男女共に実家を離れて新家を興・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・この作品において、野間という作者は、そのころの左翼の学生運動を貫いていた日本に関する歴史的展望――「プロレタリア革命への転化の傾向をもつブルジョア民主主義革命の到来」の意味を十分理解して書いているし、その左翼グループから歴史的見とおしの上で・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 出版の統制ということを、直感的に良書のゆたかな出版時代の到来としてうけている市民は、なかりそうに思う。統制でのこった本はどんなものかということに対する一抹の杞憂が、誰の胸のなかにも在るというのが正直なところではないだろうか。 先頃・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・九十六篇のほか小論文五百十四、戯曲六篇という尨大な制作を行い、しかも生涯借金に悩まされどおしで死んだ横溢的な世界的作家に母国語で親しめるということは、我々にとって遅すぎたとしても決して早すぎて到来した機会と言えないのである。 しかし、昨・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫