・・・ 以上の現象の記述には、なんらか事実に基づいたものがあるという前提を置いて、さて何かこれに類似した自然現象はないかと考えてみると、まず第一に旋風が考えられる。もし旋風のためとすればそれは馬が急激な気圧降下のために窒息でもするか内臓の障害・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・論理と解析ではその前提においてすでに包含されている以外の何物をも得られない事は明らかである。総合という事がなければ多くの科学はおそらく一歩も進む事は困難であろう。一見なんらの関係もないような事象の間に密接な連絡を見いだし、個々別々の事実を一・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ともかくもこれらの名前を一定の方式に従って統計的に取り扱い、その結果がよければ前提が是認され、悪ければ否定されるのである。 完全な材料はなかなか急には得難いので、ここではまず最初の試みとして東京天文台編「理科年表」昭和五年版の「本邦のお・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・暑いという前提があって、それに特殊な条件が加わって始めて涼しさが成立するのである。 先年塩原の山中を歩いていた時に、偶然にこの涼しさの成立条件を発見した。とその時に思ったことがある。蒸されるような暑苦しい谷間の坂道の空気の中へ、ちょうど・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・の場合に均質な完全弾性体に簡単なる境界条件を与えた場合の可逆的な変化について考察を下すに過ぎないのである。物理学上の方則には誤りはないはずであっても、これを応用すべき具体的の「場合」の前提とすべき与件の判定は往々にして純正物理学の範囲を超越・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・という前提をなしいたるなり。この前提が実用上無謀ならざる事は数回同じ実験を繰返す時は自ずから明らかなるべきも、とにかくここに予言者と被予言者との期待に一種の齟齬あるを認め得べし。 次には近似の意義に関する意見の齟齬が問題となる。学者が第・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 数学では最初に若干の公理前提を置いて、あとは論理に従って前提の中に含まれているものを分析し、分析したものを組み立ててゆくのであるが、われわれの言語によって考えを運んでゆく過程もかなりこれと似たところがある。もちろん、数学の公理や論理は・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・ 話が興味の中心に近いて来ると、いつでも爺さんは突然調子を変え、思いもかけない無用なチャリを入れてそれをば聞手の群集から金を集める前提にするのであるが、物馴れた敏捷な聞手は早くも気勢を洞察して、半開きにした爺さんの扇子がその鼻先へと差出・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・しかし私は此でも主語的論理の独断が前提となっていると思う。疑うも疑うことのできない直証の事実というのは、自己と物との、内と外との矛盾的自己同一の事実ということである。自己があって、そういう事実があると考えるのは推論の結果であって、我々の自己・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・その前提となって、はげしい心の病気からの立ち上りが示されている作品であった。「古き小画」では、素朴な古代人の感情、行動、近東の絵画的風俗などに少なからず作者の感興がよせられている。エクゾチシズムが濃い。しかしテーマは、古代ペルシアの王と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
出典:青空文庫