・・・ かつ椿岳の水彩や油画は歴史的興味以外に何の価値がない幼稚の作であるにしろ、洋画の造詣が施彩及び構図の上に清新の創意を与えたは随所に認められる。その著るしきは先年の展覧会に出品された広野健司氏所蔵の花卉の図の如き、これを今日の若い新らし・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・もし、芸術が真の発見であり、創意であり、作家の熱烈なる要求であることの代りに、通俗への合流に過ぎぬとしたら、何の教化ということもないでありましょう。 芸術は、凡俗生活に対する反抗からはじまったと見るべきが本当であります。今日の文化が、兎・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・自然の条件に従って、発生し、醗酵するものゝみが、最も創意に富んだ形を未来に決定するのである。それ故に、機械主義的な構成に、また強権主義的な指導に、真の創造はあり得ないであろう。 人間は、意識的に、形態を定めることはできる。しかし、詩を作・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・細君の創意工夫の独特の味が付いています。ナマズだって、こうなると馬鹿に出来ませんよ。まあ、一口めし上ってごらんなさい。鰻と少しも変りませんから。」 お盆には、その蒲焼と、それから小さいお猪口が載っていた。私はリンゴ酒はたいてい大きいコッ・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・受けてこれを読むに、けだし近時英国の碩学スペンサー氏の万物の追世化成の説を祖述し、さらに創意発明するところあり。よってもってわが邦の制度文物、異日必ずまさになるべき云々の状を論ず。すこぶる精微を極め、文辞また婉宕なり。大いに世の佶屈難句なる・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・と云う小説から来たもので、余はこれに対して些少の創意をも要求する権利はない。エーンズウォースには斧の刃のこぼれたのをソルスベリ伯爵夫人を斬る時の出来事のように叙してある。余がこの書を読んだとき断頭場に用うる斧の刃のこぼれたのを首斬り役が磨い・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・終六言を三三調に用いたるは蕪村の創意にやあらん。その例、嵯峨へ帰る人はいづこの花に暮れし一行の雁や端山に月を印す朝顔や手拭の端の藍をかこつ水かれ/″\蓼かあらぬか蕎麦か否か柳散り清水涸れ石ところ/″\我をいとふ隣・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ ベースボールいまだかつて訳語あらず、今ここに掲げたる訳語はわれの創意に係る。訳語妥当ならざるは自らこれを知るといえども匆卒の際改竄するに由なし。君子幸に正を賜え。升 附記・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・、猛然と自分のかけられてきた師範学校的世界観の魔睡を批判しはじめる。佐田の煩悶がかくして始る。佐田は神経的に正義派的に、彼の認識の中で一般化されている児童の「意欲をもたぬ幼年期の純真さ、無邪気さ」、創意性などを計量し、「労作にむすびついた教・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・もしも彼女が、上成績で学位をとったことを、これから安楽な奥さん生活を営むためにより有利な条件として利用しようとでもする俗っぽい性根であったなら、決してピエール・キュリーのような天才的な、創意にみちた科学者の人柄と学問の立派さを理解することは・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
出典:青空文庫