・・・男女の交会も万善の功徳じゃ。われらが寝所には、久遠本地の諸法、無作法身の諸仏等、悉く影顕し給うぞよ。されば、道命が住所は霊鷲宝土じゃ。その方づれ如き、小乗臭糞の持戒者が、妄に足を容るべきの仏国でない。」 こう云って阿闍梨は容をあらためる・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・上一人の位を望むべからずとの天戒を定め玉い、この天戒を守らばその功徳に依って、DS の尊体を拝し、不退の楽を極むべし。もしまた破戒せば「いんへるの」とて、衆苦充満の地獄に堕し、毒寒毒熱の苦難を与うべしとの義なりしに、造られ奉って未だ一刻をも・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・雨のため傷められたに相異ないと、長雨のただ一つの功徳に農夫らのいい合った昆虫も、すさまじい勢で発生した。甘藍のまわりにはえぞしろちょうが夥しく飛び廻った。大豆にはくちかきむしの成虫がうざうざするほど集まった。麦類には黒穂の、馬鈴薯にはべと病・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 伝え聞く、摩耶山とうりてんのうじ夫人堂の御像は、その昔梁の武帝、女人の産に悩む者あるを憐み、仏母摩耶夫人の影像を造りて大功徳を修しけるを、空海上人入唐の時、我が朝に斎き帰りしものとよ。 知ることの浅く、尋ぬること怠るか、はたそれ詣・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・本人も語らず、またかかる善根功徳、人が咎めるどころの沙汰ではない、もとより起居に念仏を唱える者さえある、船で題目を念ずるに仔細は無かろう。 されば今宵も例に依って、船の舳を乗返した。 腰を捻って、艪柄を取って、一ツおすと、岸を放れ、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・「先祖代々の諸精霊……願以此功徳無量壇波羅蜜。具足円満、平等利益――南無妙……此経難持、若暫持、我即歓喜……一切天人皆応供養。――」 チーン。「ありがとう存じます。」「はいはい。」「御苦労様でございました。」「はい。・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・今度頸を法華経に奉って、その功徳を父母に回向し、其の余をば弟子檀那等にはぶくべし」といった、また左衛ノ尉の悲嘆に乱れるのを叱って、「不覚の殿原かな。是程の喜びをば笑えかし。……各々思い切り給え。此身を法華経にかうるは石にこがねをかえ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・それですから善女が功徳のために地蔵尊の御影を刷った小紙片を両国橋の上からハラハラと流す、それがケイズの眼球へかぶさるなどという今からは想像も出来ないような穿ちさえありました位です。 で、川のケイズ釣は川の深い処で釣る場合は手釣を引いたも・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・さればまことに弥次郎兵衛の一本立の旅行にて、二本の足をうごかし、三本たらぬ智恵の毛を見聞を広くなすことの功徳にて補わむとする、ふざけたことなり。 十二日午前、田中某に一宴を餞せらるるまま、うごきもえせず飲み耽り、ひるいい終わりてたちいで・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・人のさまたげはせぬが功徳じゃ。主人が帰るそれまでは、我とおのれ等とは何の関りも無い。帰る。宜かろう。何様じゃ。互に用は無い。勝手にしおれおのれ等。ハハハハハハ、公方が河内正覚寺の御陣にあらせられた間、桂の遊女を御相手にしめされて御慰みあった・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
出典:青空文庫