・・・その上万一手に余れば、世の中の加勢も借りることが出来る。このくらい強いものはありますまい。またほんとうにあなたがたは日本国中至るところに、あなたがたの餌食になった男の屍骸をまき散らしています。わたしはまず何よりも先へ、あなたがたの爪にかから・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・婆やは八っちゃんにお乳を飲ませているものだから、いつでも八っちゃんの加勢をするんだ。そして、「おおおお可哀そうに何処を。本当に悪い兄さんですね。あらこんなに眼の下を蚯蚓ばれにして兄さん、御免なさいと仰有いまし。仰有らないとお母さんにいい・・・ 有島武郎 「碁石を呑んだ八っちゃん」
・・・――漁場へ遁げりゃ、それ、なかまへ饒舌る。加勢と来るだ。」「それだ。」「村の方へ走ったで、留守は、女子供だ。相談ぶつでもねえで、すぐ引返して、しめた事よ。お前らと、己とで、河童に劫されたでは、うつむけにも仰向けにも、この顔さ立ちっこ・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・「ほう、そいつは、俺も加勢するんだった。いつかは、そんなことになると思うとったんだ。」橇の上からピストルを放したメリケン兵のロシア語は、まだ栗本の耳にまざまざと残っていた。「眼のこ玉から火が出る程やっつけてやるといいんだ!」 けれど・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・もしまた素人で同じ経験を持っている人があらば、その人は同じ問題の追求に加勢してくれるかもしれない。このような考えから、私はこの懺悔とも論文ともつかないものを書いてしまった。この全編の内容が一般の読者の「笑い」の対象になっても、それはやむを得・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・後からつづいて停車した電車の車掌までが加勢に出かけて、往来際には直様物見高い見物人が寄り集った。 車の中から席を去って出口まで見に行くものもある。「けちけちするない――早く出さねえか――正直に銭を払ってる此輩アいい迷惑だ。」と叫ぶものも・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・小万さん、お前加勢しておくれよ」「いやなことだ。私ゃ平田さんと仲よくして、おとなしく飲むんだよ。ねえ平田さん」「ふん。不実同士揃ッてやがるよ。平田さん、私がそんなに怖いの。執ッ着きゃしませんからね、安心しておいでなさいよ。小万さん、・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・そして几帳のかげの光君に時々声をかけては、「いらしって御加勢なすって下さいナ、何だか雲行があやしくなってしまいましたもの」なんかと久しい、なれたつき合いのようにたまに口を交したことほかない光君にしゃべりかける。わきに居る母君等はもう・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫