・・・しかし、彼等には、やはり、話にきいた土匪や馬賊の惨虐さが頭にこびりついていた。劣勢の場合には尻をまくって逃げだすが、優勢だと、図に乗って徹底的な惨虐性を発揮してくる。そういう話が、たった八人の彼等を、おびやかすのだった。本隊を遠く離れると、・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・もともと劣勢の生れでは無かった。悪の、おのれの悪の自覚ゆえに弱いのだ。「われ、かつて王座にありき。いまは、庭の、薔薇の花を見て居る。」これは友人の、山樫君の創った言葉である。 私の庭にも薔薇が在るのだ。八本である。花は、咲いていない。心・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・して行く場合にはこれらの句はややもすれば罰点を付けられるのであるが、しかし上述のような考え方に従ってその句の近辺一帯の進行を通観した後にその一句の役目を考え直してみると、多くの場合にわれわれはこのやや劣勢なる不協和音的存在の価値を前とはちが・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫