・・・そんな人間の存在を助けているということは、社会生活という上から見て、正しく不道徳な行為であらねばならぬ」斯ういうのが彼等の一致した意見なのであった。「一体貧乏ということは、決して不道徳なものではない。好い意味の貧乏というものは、却て他人・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
彼は永年病魔と闘いました。何とかしてその病魔を征服しようと努力しました。私も又彼を助けて、共にその病魔を斃そうと勉めましたが、遂に最後の止めを刺されたのであります。 本年二月二十六日の事です。何だか身体の具合が平常と違・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・しかしそれを助けてやるというような気持は私の倦怠からは起こって来ない。彼らはそのまま女中が下げてゆく。蓋をしておいてやるという注意もなおのことできない。翌日になるとまた一匹宛はいって同じことを繰り返していた。「蠅と日光浴をしている男」い・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・た金を塩の方で失くすという始末、俳諧の一つもやる風流気はありながら店にすわっていて塩焼く烟の見ゆるだけにすぐもうけの方に思い付くとはよくよくの事と親類縁者も今では意見する者なく、店は女房まかせ、これを助けて働く者はお絹お常とて一人は主人の姪・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・この闘いに協同戦線を張って助け合うことが夫婦愛を現実に活かす大きな機会でなくてはならぬ。たのみ合うという夫婦愛の感じは主としてここから生まれる。この問題でたよりにならない相手では、たのみにならない味方ということになる。この闘いは今日の場合で・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ きゅうにドカドカと騒がしい音がして、二人の支那人が支那服を着た田川を両方から助け肩にすがらしてはいってきた。「大人、露西亜人にやられただ」 支那人の呉清輝は、部屋の入口の天鵞絨のカーテンのかげから罪を犯した常習犯のように下卑た・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・そしてその高慢税は所得税などと違って、政府へ納められて盗賊役人だかも知れない役人の月給などになるのではなく、直に骨董屋さんへ廻って世間に流通するのであるから、手取早く世間の融通を助けて、いくらか景気をよくしているのである。野暮でない、洒落切・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・――先生はふだんから、貧乏な可哀相な人は助けてやらなければならないし、人とけんかしてはいけないと云っていましたね。それだのに、どうして戦争はしてもいいんですか。 先生、お父さんが可哀そうですから、どうか一日も早く戦争なんかやめるようにし・・・ 小林多喜二 「級長の願い」
・・・みとするは後なる床柱これへ凭れて腕組みするを海山越えてこの土地ばかりへも二度の引眉毛またかと言わるる大吉の目に入りおふさぎでござりまするのとやにわに打ちこまれて俊雄は縮み上り誠恐誠惶詞なきを同伴の男が助け上げ今日観た芝居咄を座興とするに俊雄・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・「午前は自分の画をかいて、午後から太郎さんの仕事を助けたってもいいじゃないか。田舎で教員しながら画をかくなんて人もあるが、ほんとうに百姓しながらやるという画家は少ない。そこまで腰を据えてかかってごらん、一家を成せるかもしれない。まあ、二三年・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫