・・・この人なら人を助けてくれるだろう。」 青年は一刹那の間、老人と顔を見合せた。そしてなぜ見せている笑顔か知れない笑顔を眺めた。青年はその笑顔に励まされて、感動したような様子で、手に持った帽をまた被って、老人の肩に手をかけて、自分の青ざめた・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・「天に在します神様――お助けください」 とおかあさんはいのりました。 と黒鳥の歌が松の木の間で聞こえるとともに馬どもはてんでんばらばらにどこかに行ってしまって、四囲は元の静けさにかえりました。 そこで二人は第二の門を通ってま・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・スバーが、それを噛めるようにしてやる そうやって長いこと坐り、釣の有様を見ている時、彼女は、どんなにか、プラタプの素晴らしい手伝い、真個の助けとなって、自分が此世に只厄介な荷物ではないことを証拠だてたく思ったでしょう! けれども、何もす・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・まさか、自分が老人になってから、子供に助けられ、世話になろうなどという図々しい虫のよい下心は、まったく持ち合わせてはいないけれども、この親は、その家庭において、常に子供たちのご機嫌ばかり伺っている。子供、といっても、私のところの子供たちは、・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・ 最後にデンプシーの審判で勝負が決まった時介添に助けられて場の中央に出て片手を高く差上げ見物の喝采に答えた時、何だか介添人の力でやっと体と腕を支えているような気がした。これに反してマックの方は判定を聞くと同時にぽんと一つ蜻蛉返りをして自・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・「おれも金があると、資本ぐらい少し助けてもいいんだが、金に縁のない方で」 お絹は微笑していた。「あんたももう二三年やろがいに」「そうかもしれない」「私も大阪へ行きさえすれば、こんなことしていないでもいいのやけれど、ここも・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・そして栄華の昔には洒落半分の理想であった芸に身を助けられる哀れな境遇に落ちたのであろう。その昔、芝居茶屋の混雑、お浚いの座敷の緋毛氈、祭礼の万燈花笠に酔ったその眼は永久に光を失ったばかりに、かえって浅間しい電車や電線や薄ッぺらな西洋づくりを・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・カーライルは書物の上でこそ自分独りわかったような事をいうが、家をきめるには細君の助けに依らなくては駄目と覚悟をしたものと見えて、夫人の上京するまで手を束ねて待っていた。四五日すると夫人が来る。そこで今度は二人してまた東西南北を馳け廻った揚句・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・その事務、千緒万端、いずれも皆、戦隊外の庶務にして、その大切なるは戦務の大切なるに異ならず、庶務と戦務と相互に助けて、はじめて海陸軍の全面を維持するは、あまねく人の知るところならん。 然らばすなわち全国学問の事においても、教育の針路を定・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 僕もそこで母が家へ帰るまで田打ちをして助けた。 けれども父はまだ帰って来ない。五月十四日、昨夜父が晩く帰って来て、僕を修学旅行にやると云った。母も嬉しそうだったし祖母もいろいろ向うのことを聞いたことを云った。祖母の云う・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
出典:青空文庫