・・・気心の好い平生大人しい人でありますから、私共始め御主人も、かれこれ気を揉んでおりますけれども、どこが痛むというではなし、苦しいというではなし、労りようがないのでございますよ。それでね、貴方、その病気と申しますのが、風邪を引いたの、お肚を痛め・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・その一層明らかな証拠には、いつも活溌に眼を耀かせ、彼を見るとすぐにも悪戯の種が欲しいと云うような顔をする彼女が、今朝は妙に大人びて、逆に彼を労り、母親ぶり「貴女に判らないこともあるのですよ」と云いたげな口つきをしているではないか。 彼が・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・の社会の条件と、彼女自身の堅忍であり、不撓な意志でもあるが、もう一歩つきつめてその堅忍や強靭な意志が何処から生れて来ていたかと考えてみれば、底には一身の安穏を忘れて科学の真実を愛し守る良人と妻とが互に労り評価し愛しつつ、傍ら子供らへの心くば・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
出典:青空文庫