・・・その僕の感想文というのは、階級意識の確在を肯定し、その意識が単に相異なった二階級間の反目的意識に止まらず、かかる傾向を生じた根柢に、各階級に特異な動向が働いているのを認め、そしてその動向は永年にわたる生活と習慣とが馴致したもので、両階級の間・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ この理由は、個人の研究や、創造はいかに貴くとも幾十年の間も、その光輝を失わぬものは少ないけれど、これに反し、集団の行動は、その動向を知るだけでも時代が分るためです。故にその時代を見ようと思えば、当時の雑誌こそ、何より有益な文献でなけれ・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・ 五 すみれ娘 日本の近代映画でも、PCLの提供するものの中には色々な点で有望な進歩の動向を示しているものがあるように思う。この「すみれ娘」などもその一例である。あくどい蒼蠅さがわりに少なくて軽快な俳諧といったよう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・しかし、ある時代のある国民の思想の動向をある方向に引き向ける第一第二の因子が何かしら存在している、それを観察し認識する能力が現在のわれわれには欠けているのではないかという気がする。そうしていっそう難儀なことはその根本的な無知を自覚しないでほ・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・女もひっくるめた全人民の生存のための問題であり、女子労働の悪条件と悲劇的な女子失業の現象は、とりも直さず全勤労人口の問題であるとして捉えられたとき――問題のそういう把握を可能としている日本社会の今日の動向そのものの中に、はっきり、問題の現実・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」は総括的にこの時期を展望している。プロレタリア文学運動の組織とその作家たちのうけた被害の姿を眺めて、居直ったブルジョア文学とその作家が、横光利一の「紋章」をかざして、一方に擡頭しつつあるファッシズ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・「過去一年をふりかえってみて私としてもっとも強い関心を感じることは、個々の法令、個々の規則ということよりも、それらの禁圧的法令、規則の脊後を通じて一貫している最近の政治動向そのものについてである。」「ここ一年以来の民自党政府のやり方には・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・小説は、果してこの急激な底潮を感じさせる時代の空気と動向とを芸術化しているであろうか。 文学の仕事に従事するのは何時の時代にもそれぞれの階級の知識的な分子である。ブルジョア文学はブルジョアのインテリゲンツィアによって作られて来た。プロレ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・プロレタリア文化・文学運動の全体関係においての敗北の時期にあたって、当時の多くのプロレタリア文学者たちが自分たちの経験を箇人的にのみみて、客観的に大衆の負うている歴史の特殊性と日本インテリゲンツィアの動向との関係として自身の敗北をも追求し、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であり、日本文学の動向に於てかえり見ると、これは明瞭な指導性をもつ文芸思潮というものが退潮して後、しかも今日では被うべくもない文化に対する統制が次第に現れようとする時であった。森田たま氏の「もめん随筆」・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
出典:青空文庫