・・・ 袋地所で、表は狭く却って裏で間口の広い家であったから、勝ち気な母も不気味がったのは無理のない事だ。又実際、あの頃は近所によく泥棒が入った。私の知って居る丈でも二つ位の話がある。けれども、其等の事件のあったのは、白の居る頃だったろうか、・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・スクロドフスキー教授の末娘、小さい勝気なマリア・スクロドフスカとして、露帝がポーランド言葉で授業を受けることを禁じている小学校で政府の視学官の前に立たされ、意地悪い屈辱的な質問に一点もたじろがず答えはしたが、その視学官が去ってしまうと、今ま・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・マリヤがそういう生活に耐えて、二十六歳のころ物理は一番で、数学は二番という成績で学士号を得たのが、決してただの負けじ魂や女の勝気や名誉心からではなかったことを、私たちは深く心にとめて味わわなければならないと思います。マリヤは、しんから科学の・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・妹に真の自立性というものを教えて、勝気のために却って歪む自尊心の負傷を少くしてやりたいこと。咲が自分の亭主に対してもう少し正しい健康な意味での影響をもつように、そうしてよいものだと確信するように。それらのことは、私が家を別にして生活すると出・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・しかし、その率直な表現はよいとして筆者は生活に向ってゆく自分の勝気というものを自分でどう内省していられるでしょうか。それから又、年期を中途で去った弟子に対して怒る自分の心持を、仕立屋商売という立場の利害からせめてはいくらかなりともふみ出した・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・ 圭子はぼやかしたところのない性格で、ずばずば口を利いたし、勝気でもあるから、気の開けない千鶴子の癪にさわることもあったであろうことは、はる子にも考えられた。けれども――先に貰った他の手紙を、はる子は思い出した。それに、自分は平常どんなに反・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・明治がその帷をかかげた女性の新しい成長への希望と、更にそれよりも深い都会の伝統が長谷川さんの血に流れ合わされていて、そこには独特の美しさと独特の矛盾をも醸し出し、積極な明治女性の勝気な俤は一種の風格をなして長谷川さんの御一生を貫いています。・・・ 宮本百合子 「積極な一生」
・・・猶私たちが人間としての希望を守りつづけ、理性の明るさへの期待を失わず、身に添っている数々の困難さえ、はためにもただ悲惨なものとして終らせまいと願う雄々しい意欲をもつとすれば、それは果して通り一遍の女の勝気だの、負けずぎらいだので可能なことで・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・彼は、恐らく勝気で賢くあったであろう自分の美しい支配者に悉く満足し、ヴィアルドオ夫人の舵とりにまかせた安易な生活の幸福に浸った。友達が世渡りの辛苦を訴えると、真面目に答えた、「僕がしているとおりにしたまえ、私は支配せらるるままにしている」と・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・小説はそういう心持にアサが辿りつくまでの経緯、腕のいい職工であるが勝気で古い母に圧せられ勝な良人の山岸との心持の交錯、大変物わかりのよい職長梶井のうごきなどを語って展開されているのである。 深い興味をもって読んだが、この長篇の前半と後半・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
出典:青空文庫