・・・ 勝気な女らしく潔癖なYが、気味わるげに訊くので、私はふき出し、少し揶揄いたくなった。「そんなじゃあないわ。支那へ来たと思えばよすぎる位よ。――でも――いそうね」「何が」「なんきんむし」「御免、御免! 風呂とはばの穢いの・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・弱気な若いものが中途半端に萎縮し、すこし勝気な青年たちが、反抗から放蕩に陥ったりすることは理解される。自身にのしかかるそういう重荷の歴史性を、はっきり解剖し、根底から社会通念を人間が生きるに合理的な方面に導こうとする建設の道へ身を投じる者は・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 下駄と足袋をぬぎすて、藍子は踝とひたひたのところまで入って行った。「一つもとれないなんて癪だ……やっとこら! と」 勝気らしくステッキをぐっと倒して深く砂を掘り起した拍子に、力が余り、ステッキの先で強く海水を叩きつけた。飛沫が・・・ 宮本百合子 「帆」
マクシム・ゴーリキイは一八六八年、日本の明治元年に、ヴォルガ河の岸にあるニージュニ・ノヴゴロドに生れました。父親は早く死に、勝気で美しい母はよそへ再婚し、おさないゴーリキイは祖父の家で育ったのですが、この子供時代の生活が、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・この若い父も当時のロシアの社会に生きる勝気な青年らしい短い物語をもった人であった。 マクシムの父親というのは陸軍将校であったが、或る時その部下を虐待した廉でシベリヤに流されたという男である。その時分のロシア軍隊生活と云えば有名なひどいも・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・いて現れている当時の常識の姿として、枕草子の中にはこの気立のすぐれたおおらかな中宮のあわれに、優婉な宮廷生活は描き出されていないで、この人の華やかであった時の物語、情景、印象などがとり集められている。勝気な枕草子の作者の気質は、中宮への愛情・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・片親だけで子を育てる母たちが、勝気になり気質が外向性になる、といわれていることが実際であるとして、かりにもしその女親の境遇のあらゆる事情が今の世の中で女のありようと全くちがうほど進歩していたら、それでもなお女の親たちは勝気や男まさりで自分の・・・ 宮本百合子 「若い母親」
・・・が、男とのいきさつの痴情的な結末は、いわゆる士族という特権的な身分を自負する女性も酌婦に転落しなければならない社会であり、しかもその中で自分の運命を積極的に展開する能力をもたなくて、僅に勝気なお力であるに止り、遂に人の刃に命を落す物語が書か・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫