・・・村田実君は青山杉作君の親鸞に唯円を勤めて、自分が監督して京都でやった。後帝劇で舞台協会の山田、森、佐々木君等がはなばなしくやった。今の岡田嘉子がかえでをやった。夏川静枝も処女出演した。 上演は入りは超満員だったが、芝居そのものは、どうも・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・子供を中学やかいへやるのは国の務めも、村の務めもちゃんと、一人前にすましてからやるもんじゃ。――まあ、そりゃ、お前の勝手じゃが、兎に角今年から、お前に一戸前持たすせに、そのつもりで居れ。」 小川は、なお、一と時、いかつい眼つきで源作を見・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・御祖母様は一つでもこれを御忘れなさるということはなかったので、其他にも大黒様だの何だのがあるので、如何な日でも私が遣らなくてはならない務めは随分なものであった。勿論厳格に仕付けられたのだから別に苦労には思わなかったが、兎に角余程早く起き出て・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・それでも勤めますと後二三日は身体が利かんくらいだという、余程稽古のむずかしいものと見えます。許し物と云って、其の中に口伝物が数々ございます。以前は名人が多かったものでございます。觀世善九郎という人が鼓を打ちますと、台所の銅壺の蓋がかたりと持・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・彼女の周囲にあった親しい人達は、一人減り、二人減り、長年小山に出入してお家大事と勤めて呉れたような大番頭の二人までも早やこの世に居なかった。彼女は孤独で震えるように成ったばかりでなく、もう長いこと自分の身体に異状のあることをも感じていた。彼・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ただ、この派の学徒たちは、すべて感情を殺すということ、その中でもとりわけ怒を押えること、そして、どんな苦しいことでも、じっとがまんするということを、人間の第一の務めだと考えていました。こういう風に自分の感情や慾望を押えつけることを自制と言い・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・なんでもあの人があの役所に勤めているもんだから、芝居へ買われる時に、あの人に贔屓をして貰おうと思うのらしいわ。事によったらお前さんなんぞも留守に来て、ちょっかいを出したかも知れないわ。お前さんだってそう底抜けに信用するわけにはいかないわ。兎・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・けれども、川沿いの村に住んでいる家々の一人のように、自分の務めをいそしんでいました。両岸には人家や樹陰の深い堤があるので、川の女神は、女王の玉座から踏み出しては家毎の花園の守神となり、自分のことを忘れて、軽い陽気な足どりで、不断の潤いを、四・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。イプセンを研究している。このごろ人形の家をまた読み返し、重大な発見をして、頗る興奮した。ノラが、あのとき恋をしていた。お医者のランクに恋をしていたのだ。それを発見した。弟妹たちを呼び集めて、そ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・いかに自分の勤めている銀行が大銀行だとしても、その中のいてもいなくても好い役人の受くべき待遇ではない。そこでチルナウエルは次第に小さい銀行員たることを忘れて、次第に昔話の魔法で化された王子になりすました。 珈琲店では新しい話の種がたっぷ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫