・・・ 療養所の医者と勤務先との間に連絡ないことは、恐るべき金、時間、精力の浪費を来して居る。消耗をいとわぬロシア人のうねりの大きな純然たるロシア的不便さだ。 ○日 ファイエルマンがこういう話をした。レーニングラード附近の或田舎で・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・六日夜十一時頃、基ちゃんが門で張番をして居ると相生署の生きのこりの巡査が来、被服廠跡の三千の焼死体のとりかたづけのために、三十六時間勤務十二時間休息、一日に一つの玄米の握り飯、で働せられて居る由。いやでもそれをしなければ一つの握り飯も貰えな・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ところが、歴史の強力な変化は、若い女のひとが学校を卒業したらすぐ家庭でお嫁入りの仕度にとりかからせないで、社会的な勤務の場面に吸収しようとしている。この二三年来、日本の女の力はおびただしく生産の場面に進み出しているのだが、とくに来年の春から・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・酒気を帯びないで勤務している者は一人もないという状態であった。他ならぬそういう看護婦の中に入って行こうというのであるから、フロレンスの周囲が驚倒したのもいわばもっとものことであったろう。 フロレンスの申出は、断然反対された。フロレンスは・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・千人針を持って、電車の中や駅の前や勤務先などで縫って貰っている若い女性達は、その一つ一つの縫目にどんな想いを籠めていたことだろう。人間としてのさまざまの重い経験、苦痛と疑問とは、総ての家庭、総ての婦人、男子の心に等しく目覚めていたのであるけ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・八時に出勤したとき一杯と、午後勤務のあるときは三時頃に一杯とは、黙っていても、給仕が持って来てくれる。色が附いているだけで、味のない茶である。飲んでしまうと、茶碗の底に滓が沢山淀んでいる。木村は茶を飲んでしまうと、相変らずゆっくり構えて、絶・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・馬糧なんぞは余り馬を使わない司令部勤務をしているのに、定則だけの金を馬糧屋に払っているのだから虎吉が随分利益を見ているということを、石田は知っている。しかし馬さえ痩せさせなければ好いと思って、あなぐろうとはしない。そうしてあるのに、虎吉が主・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・栖方と同じ所に勤務していた技師に死なれては、高田もそこから栖方のことを聞く以外に、方法のなかったそれまでの道は断ちきれたわけであった。随って梶もまたなかった。 戦争は終った。栖方は死んでいるにちがいないと梶は思った。どんな死に方か、とに・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫