・・・誠につかまえどころのない化け物のようなものであるが、ともかくもいわゆるジャーナリズムと称する「もの」があることだけは確実な事実である。ただ頭としっぽがどうもはっきりつかまえにくいだけである。このつかまえにくい頭としっぽをつかまえようというの・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 今の娘たちから見ると、眉を落とし歯を涅めた昔の女の顔は化け物のように見えるかもしれない。しかし、逆にまた、今の近代嬢の髪を切りつめ眉毛を描き立て、コティーの色おしろいを顔に塗り、キューテックの染料で爪を染め、きつね一匹をまるごと首に巻・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・や「化け物カルタ」や「ヤマチチの話」の中に、こういう異国の珍しく美しい物語が次第に入り込んで雑居して行った径路は文化史的の興味があるであろう。今書店の店頭に立っておびただしい少年少女の雑誌を見渡し、あのなまなましい色刷りの表紙をながめる時に・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ シナの庭園も本来は自然にかたどったものではあろうが、むやみに奇岩怪石を積み並べた貝細工の化け物のようなシナふうの庭は、多くの純日本趣味の日本人の目には自然に対する変態心理者の暴行としか見えないであろう。 盆栽生け花のごときも、また・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 新聞記事はこれに限らず、人殺しでも心中でも、皆一定の公式があって、簡単に無理やりにその型にはめ込んで書いてしまうから、どの事件も同じように不合理非常識な概念の化け物でこね上げられたものになっているのは周知の事実である。しかしこれは必ず・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
人間文化の進歩の道程において発明され創作されたいろいろの作品の中でも「化け物」などは最もすぐれた傑作と言わなければなるまい。化け物もやはり人間と自然の接触から生まれた正嫡子であって、その出入する世界は一面には宗教の世界・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・芋から見れば片輪者であり化け物であろうが人間が見るとやはり美しい。 ベコニア、レッキスの一種に、これが人間の顔なら焼けどの瘢痕かと思われるような斑紋のあるのがある。やけどと思って見るとぞっとするくらいであるがレッキスとして見れば実に美し・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ 最初のうちはいろいろの片輪者や化け物が生まれた。しかしそれらは栄養生殖に不適当であるためにまもなく絶滅したと言って、ここに明らかに「適者生存の理」を述べている。残存し繁栄した種族は自衛の能力あるものか、しからざれば人間の保護によるもの・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・ 連句に限らずすべての詩歌、ただし近ごろの先端的とか称する奇妙な不規則な詩形の化け物はひとまず除外するとして、普通の古典的の意味においてのすべての詩歌は、皆共通な音楽的要素をもっている。それはまず第一に時間的なリズムである。しかしこれが・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫