・・・文学の友だちもたくさんあって、その友人たちと「十字街」という同人雑誌を発行し、ご自身は、その表紙の絵をかいたり、また、たまには「苦笑に終る」などという淡彩の小説を書いて発表したりしていました。夢川利一という筆名だったので、兄や姉たちは、ひど・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・かれは上野の美術学校の彫刻科にはいっていたのであるが、彫刻よりも文学のほうが好きなようで、「十字街」という同人雑誌の同人になって、その表紙の絵をかいたり、また、創作も発表していた。しかし、私は、兄の彫刻も絵も、また創作も、あまり上手だとは思・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・新調のその船の名は、細胞文芸、井伏鱒二、林房雄、久野豊彦、崎山兄弟、舟橋聖一、藤田郁義、井上幸次郎、その他数氏、未だほとんど無名にして、それぞれ、辻馬車、鷲の巣、十字街、青空、驢馬、等々の同人雑誌の選手なりしを手紙で頼んで、小説の原稿もらい・・・ 太宰治 「喝采」
・・・道をきくと、車夫のくせに、四辻の事を十字街だの、それから約一丁先だのと言うよ。ちょいと向の御稲荷さまなんていう事は知らないんだ。御話にゃならない。大工や植木屋で、仕事をしたことを全部完成ですと言った奴があるよ。銭勘定は会計、受取は請求という・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・ ほんの一時間半も経てば、此十字街の有様はまるで変るだろう。如何にも東洋の夜らしく鋪道の傍に並んだ露店を素見しながら、煌らかな明りの裡を、派手な若い男女の組、幸福らしい親子づれがぞろぞろ賑やかに通るのだが、今は、一とき前の引潮だ。道傍で・・・ 宮本百合子 「小景」
出典:青空文庫