・・・粗末なバラック室、卓子二、一は顕微鏡を載せ一は客用、椅子二、爾薩待正 椅子に坐り心配そうに新聞を見て居る。立ってそわそわそこらを直したりする。「今日はあ。」「はぁい。」(ペンキ屋徒弟登場 看板を携爾薩・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・ 署長さんは落ち着いて、卓子の上の鐘を一つカーンと叩いて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵を呼びました。 さて署長さんは縛られて、裁判にかかり死刑ということにきまりました。 いよいよ巨きな曲った刀で、首を落されるとき、署・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・ 異教徒席の中からせいの高い肥ったフロックの人が出て卓子の前に立ち一寸会釈してそれからきぱきぱした口調で斯う述べました。「私はビジテリアン諸氏の主張に対して二個条の疑問がある。 第一植物性食品の消化率が動物性食品に比して著しく小・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・一つの白いきれを掛けた卓子と、椅子とが持ち出されました。眼のまわりをまっ黒に塗った若いばけものが、わざと少し口を尖らして、テーブルに座りました。白い前掛をつけたばけものの給仕が、さしわたし四尺ばかりあるまっ白の皿を、恭々しく持って来て卓子の・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 大理石の卓子の上に肱をついて、献立を書いた茶色の紙を挾んである金具を独楽のように廻していた忠一が、「何平気さ、うんと仕込んどきゃ、あと水一杯ですむよ」 廻すのを止め、一ヵ所を指さした。「なあに」 覗いて見て、陽子は笑い・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ やがて、彼は側の小卓子の引き出しから一枚の白紙と鉛筆をとり出した。 さほ子が小一時間の後、手を拭き拭き台所から戻って来ると、彼は黙って其紙片を出して見せた。彼女は莞爾ともしないで眼を通した。彼が新聞に出そうと思った広告の下書きであ・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ 私は、サビエットを卓子の上になげ出して玄関に出て見た。私も、其処のたたきにあるものを一目見ると、我知らず「まあ、どうなすったの?」と云った。 其処には、実に丸々と肥えた、羊のような厚い白の捲毛を持った一匹の子犬が這・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・或る支那の文人に会いに行ったら、紫檀の高い椅子卓子、聯が懸けられたまるで火の気のない室へ通された。芥川さんは胴震いをやっと奥歯でくいしめていると、そこへ出て来た主人である文人が握手した手はしんから暖く、芥川さんは部屋の寒さとくらべて大変意外・・・ 宮本百合子 「裏毛皮は無し」
・・・とっつきは狭い格子戸で、下駄を脱ぎ散らした奥の六畳と玄関の三畳の間とをぶっ通しにして、古物めいた椅子と卓子とが置かれているのである。 男が二人いて、それぞれ後から後から来る客にアッテンドしている。年は二十八九と四十がらみで、一目見ても過・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・そこで廊下から西洋風の戸口を通って書斎へはいると、そこは板の間で、もとは西洋風の家具が置いてあったのかもしれぬが、漱石は椅子とか卓子とか書き物机とかのような西洋家具を置かず、中央よりやや西寄りのところに絨毯を敷いて、そこに小さい紫檀の机を据・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫