・・・ かつぶし運送会社で南洋迄行ってカツオの研究をした 土地会社 つぶれる<氷かつぎをやる ムジン会社 つぶれる。 長崎まで行く たたき殺しちまうと代理店のゴロにおどかされる。 其から又遊ぶ半・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・ 飴緑色の半透明な茎を、根を埋めた水苔のもくもくした際から見あげると、宛然それ自身が南洋の繁茂した大樹林のように感じられた。 想像の豊かな若者なら、きっとその蔭に照る強い日の色、風の光、色彩の濃い熱帯の鳥の翼ばたきをまざまざと想うこ・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ かように文学として自主的な必然に立っていなかった農民文学のグループが、本来ならばますます描かれるべき農村状態の緊張の高まりと共に忽ち方向を転換して次の年には南洋進出の潮先に乗って海洋文学懇話会というものに変ったのは、まことに滑稽な悲惨・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 真黒な体の男や女が山の中の浅い井戸の様に自然に温泉の湧く穴につかってガヤガヤさわいで居るのを見た時はまるで南洋にでも行った様に珍らしさと気味悪さがゴッチャになって大いそぎで帰ったなんかとも云った。 千世子は山形の五色の温泉へ祖母と・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・そのほか多くの婦人作家たちが、満州、支那、南洋へと見学にも出かけている。 十年前なら、秋の奈良へ行って博物館や法隆寺を見ていた婦人作家たちが、今日は満州だの蘭印だのへ出かける。 そういう風に動きの領域がひろがったことは、次第に婦人作・・・ 宮本百合子 「拡がる視野」
・・・第一次ヨーロッパ大戦のとき、日本は最後の段階に連合国側に参加してチンタオだの南洋諸島だのを、ドイツから奪って統治するようになった。第一次大戦のとき日本で儲けたのは海運業者であった。船成金ができて、金のこはぜの足袋をはいたとさわがれたが、一般・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・中河与一の南洋紀行。吉行エイスケの中国もの。それぞれ、確に日本以外の外国をとり入れ、それを主題としている点では一見国際的であるらしく思える。 では、そういう諸作品が、何を主眼として外国をとり入れているか? 第一に、主題の異国的な目新しさ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・それが手軽く今度は南洋へという風に動くのも、文学の必然の稀薄さのあらわれと云える。それならば、農民の生活を描こうとする作家は、みんなそれぞれの故郷の田舎に一人の農民としての日々を暮しつつ、その上で作品をかいて行ったらよいだろうと思えるし、そ・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・ 大石千代子さんは、ブラジルに十年の余も暮し、南洋にも暮し、書きたい題材はいっぱいあって苦しいくらいだという状態で、『山に生きる人々』という作品集を大陸開拓文芸懇話会の選書で出版していられる。 大石氏の題材は多く日本からの移民の生活・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
人間の哀れさが、漠然とした感慨となって石川の胸に浮ぶようになった。 石川は元来若い時分は乱暴な生活をした男であった。南洋の無人島で密猟をしていたこともある。××町に住むようになって、いろいろな暮しを見ききする間に、偶然・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫