・・・もし知識人にとって、現在あるがままの知識人であることに疑いを抱かせ、その精神を混乱せしめ従って社会的存在意義を危うくするものが敵であると考え得るならば、横光は、なぜ一人の実践力あるマルキシストを作中にひきこんでこなかったか。 雁金のかわ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ そんな事は、きまりきって居る事だけに余計危うく、みじめに感じられるのである。 そう斯うして居るうちに四五日は気のつかない中に立ってしまって、いそがしい仕事があったので、それに追われて外にも出ずに居るうちに二十三番地――孝ちゃんの家・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・可愛ゆさ、安心、悦びが、一時にぐっとこみあげ、涙となろうとするのを、危うくも止めた表情である。 自分はそれを見、正視するに耐えなかった。眼を逸し、さりげなく「安積から来た柿?」と、まつに話しかけた。「そうでございます。俵に一・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・十九世紀の近代社会の勃興期におけるロマンティシズムのような、現実へ働きかける情熱としてではなく、今日の分裂的な恋愛、とくに日本においては、逞しい生活意欲という仮装面の下に、危うく過去のあり来りの男の凡俗な漁色の姿をおおいかくしている結果にな・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・父は、地震の三十分前、倒壊して多くの人を殺した丸の内の或る建物の中にい、危うく死とすれ違った。私は、鎌倉で、親密な叔母と一人の従弟が圧死したことを知った。まさかと思った帝国大学の図書館が消防の間も合わず焼け落ちてしまったのを知った。 段・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫