・・・幸に、男子にとって、厄年である四十三も、無事に過ぎたことを祝福します。――十三年十二月―― 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・しかし、そのころの私はまだ四十二の男の厄年を迎えたばかりだった。重い病も、老年の孤独というものも知らなかった。このまますわってしまうのかと思うような、そんな恐ろしさはもとより知らなかった。「みんな、そうですよ。子供が大きくなる時分には、わが・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そうして私は世俗で云う厄年の境界線から外へ踏み出した事になったのである。 日本では昔から四十歳になると、すぐに老人の仲間には入れられないまでも、少なくも老人の候補者くらいには数えられたもののようである。しかし自分はそう思わなかった。四十・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・女の人の注意をあつめていると思う。イレーネの母は、四十歳前後の年ごろであろう。女の厄年というものを日本の云いならわしでは十六とか三十三とか云って、それにはその年それぞれの理由から、様々の危期もあるだろうが、娘の十五、六という年と母の四十歳前・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
弟の家内が今年の正月で三十三を迎えた。三十三は女の厄年といわれている。 厄年というものを迷信的に考えはしないけれど、たとえば女の子の十六歳、十九歳などという年齢を、何か意味あるけじめのように見ることは、その年頃の生理や・・・ 宮本百合子 「小鈴」
・・・まあ厄年やして。」「厄年や、あかん、今年やなんでも厄介にならんならん。」「そうか、四十二か、まアそこへ掛けやえせ。そして、亀山で酒屋へ這入ってたのかな?」「酒屋や、十五円貰うてたのやが、お前、どっと酒桶へまくれ込んでさ。医者がお・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫