・・・その一つは、著者が若々しい第一作「敗北の文学」及び「過渡期の道標」で示したニュアンスにとみ曲折におどろかない豊潤な資質は、その後の諸論集のなかでどのように展開されただろうかという問題である。 片上伸研究が「過渡期の道標」と題されたことは・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・廐の臭いや牛乳の臭いや、枯れ草の臭い、及び汗の臭いが相和して、百姓に特有な半人半畜の臭気を放っている。 ブレオーテの人、アウシュコルンがちょうど今ゴーデルヴィルに到着した。そしてある辻まで来ると、かれは小さな糸くずが地上に落ちているのを・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・壮年に及びて弥五右衛門景一と名告り、母の族なる播磨国の人佐野官十郎方に寄居いたしおり候。さてその縁故をもって赤松左兵衛督殿に仕え、天正九年千石を給わり候。十三年四月赤松殿阿波国を併せ領せられ候に及びて、景一は三百石を加増せられ、阿波郡代とな・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・やはり同じ失敗の作で、成功というような見事な不自然なことは到底及びもつかない夢だと思う。もし傑作が出来ればまぐれ当りだ。私が何をしていくかという質問を出された前では、ただ自分は爆けていき、はみ出して行きたいと望んでいると答えるより、今のとこ・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・この劇的雄弁術を演技だと考えていた吾人は、デュウゼが新しい考え方と演じ方とをもって出現するに及び革命に逢着した。デュウゼにとっては動作は終局でない。真の演技の邪魔となるに過ぎない。彼女にとっては最も大なる瞬間は最も深い静寂の時である。情熱を・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫