・・・この範囲の間に布田、登戸、二子などのどんなに趣味が多いか。以上は西半面。 東の半面は亀井戸辺より小松川へかけ木下川から堀切を包んで千住近傍へ到って止まる。この範囲は異論があれば取除いてもよい。しかし一種の趣味があって武蔵野に相違ないこと・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
多摩川の二子の渡しをわたって少しばかり行くと溝口という宿場がある。その中ほどに亀屋という旅人宿がある。ちょうど三月の初めのころであった、この日は大空かき曇り北風強く吹いて、さなきだにさびしいこの町が一段と物さびしい陰鬱な寒・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・ 鳥打帽に双子縞の尻端折、下には長い毛糸の靴足袋に編上げ靴を穿いた自転車屋の手代とでもいいそうな男が、一円紙幣二枚を車掌に渡した。車掌は受取ったなり向うを見て、狼狽てて出て行き数寄屋橋へ停車の先触れをする。尾張町まで来ても回数券を持って・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・第一舅姑に順ならざるは去ると言う。婦人の性質粗野にして根性悪しく、夫の父母に対して礼儀なく不人情ならば離縁も然る可し。第二子なき女は去ると言う。実に謂われもなき口実なり。夫婦の間に子なき其原因は、男子に在るか女子に在るか、是れは生理上解剖上・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・「あれきっと双子のお星さまのお宮だよ。」男の子がいきなり窓の外をさして叫びました。 右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたような二つのお宮がならんで立っていました。「双子のお星さまのお宮って何だい。」「あたし前になんべん・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・「オーソクレさん。かまわないで下さい。あんまりこいつがわからないもんですからね。」「双子さん。どうかかまわないで下さい。あんまりこいつが恩知らずなもんですからね。」「ははあ、双晶のオーソクレースが仲裁に入った。これは実におもしろ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・つまりそれだ。つまり双子星座様は双子星座様のところにレオーノ様はレオーノ様のところに、ちゃんと定まった場所でめいめいのきまった光りようをなさるのがオールスターキャスト、な、ところがありがたいもんでスターになりたいなりたいと云っているおまえた・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
双子の星 一 天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。 このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ 九日、皆、藤沢をまわり、二子の渡をとおり、*の家につく。 十日、国男だけ林町に送られて来る。 藤沢に行く迄に網の目のように地われしたところがあるそうだ。われ目にはさまった自動車。 ○倉知、叔母、ゆれ始めたとき女中と、二番目・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫