・・・売っても可いそうな肱掛椅子に反身の頬杖。がらくた壇上に張交ぜの二枚屏風、ずんどの銅の花瓶に、からびたコスモスを投込んで、新式な家庭を見せると、隣の同じ道具屋の亭主は、炬燵櫓に、ちょんと乗って、胡坐を小さく、風除けに、葛籠を押立てて、天窓から・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・キチンと四角に坐ったまま少しも膝をくずさないで、少し反身に煙草を燻かしながらニヤリニヤリして、余り口数を利かずにジロジロ部屋の周囲を見廻していた。どんな話をしたか忘れてしまったが、左に右く初めて来たのであるが、朝の九時ごろから夕方近くまで話・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・で、紳士たる以上はせめてムダ金の拾万両も棄てて、小町の真筆のあなめあなめの歌、孔子様の讃が金で書いてある顔回の瓢、耶蘇の血が染みている十字架の切れ端などというものを買込んで、どんなものだいと反身になるのもマンザラ悪くはあるまいかも知らぬ。・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・あいつこそ、わからずやの馬鹿野郎だが、あれでまた、これから、うちの雑誌には書かねえなんて反り身になって言い出しやがったら、かなわねえ。行ってくれ。行って、そうしてまあ、いい加減ごまかしを言って、あやまるんだな。御教訓に依って、目がさめました・・・ 太宰治 「女類」
・・・その時ばかりは兵隊が可哀相で、反身になった士官の胸倉へ飛び付いてやろうかと思った。それ以来軍人と云うものはすべてあんなものかと云うような単純な考えが頭に沁みて今でも消えぬ。こんな訳だから、学校でも軍人希望の者などとはどうしても肌が合わぬ、そ・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
出典:青空文庫