・・・ 父兄はもちろん、取引先きも得意先きも、十露盤ばかりのその相手に向い、君は旧弊の十露盤、僕は当世の筆算などと、石筆をもって横文字を記すとも、旧弊の連中、なかなかもって降参の色なくして、筆算はかえって無算視せらるるの勢なり。いわんや、その・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・夫は取引の旅行中にその女どもに逢っていますので、イソダンでは誰も知らずにいるのでございます。 そこでわたくしはどういたしたらよろしいのでございましょう。それについて誰に相談いたしましょう。決してこの土地の人には打明けたくございません。・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ まともに相剋に立ち入っては一生を賭しても解決はむずかしいのだからと、今日の文化がもっている凹みの一つである女らしさの観念をこちらから把んで、そこで女らしさの取引きを行って処世的にのしてゆくという態度も今日の女の生きる打算のなかには目立・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 彼方では一般が商取引風になっているように、やはり文筆を執りつつあるものの間にも、それがあります。作品として出来上がった結果のよしあしは別として、日本などとは丁度反対で、名人気質の人がどうも少ないようです。 この私の見方は丁度、三人・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・その一冊にさらに五パーセントの取引税がかかる。子供たちに買ってやる絵本にもその五パーセントはついて来る。国会でも問題になったこのたちのわるい大衆課税は、政府としてやむをえないこととして押しきった。理由は天文学的数字の予算をまかなえないからで・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・収穫物の取引は集団農場と国営の生産組合とが直接やるのであるから、だまされる心配をする必要がない。 その他に便利は沢山ある。 集団農場には托児所、共同食堂、クラブなどはつきものとなっている。 私は、来ていた人に、自分がソヴェト同盟・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・ 寧ろ、現代の資本主義が強く文化分野を支配するようになってから、その取引場としてパリ、ロンドン、ニューヨークという風な首都が、文化・芸術の成果を集中しはじめた。文化・芸術の結実は、そのものとして人民に愛され、貴ばれる本質から変化させられ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ペルシャの商人までそこに出て来て、何百万ルーブリという取引がある。ニージュニ・ノヴゴロド市の埠頭、嘗てゴーリキーが人足をしたことのある埠頭から、ヴォルガ航行の汽船が出る。母なるヴォルガ河、船唄で世界に知られているこの大河の航行は、実に心地の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・はでなサロン向の画商との所謂大家的取引とは何と違うでしょう。ゴッホは自分の弟を最も信頼する画商として持っていました。ルノアールは水ぽい絵描きですが、セザンヌに対しては厚い心を持っていた様です。この伝記とチャンポンに小説を読みましょう。実に小・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・婿は機屋と取引上の関係のある男で、それをことわっては、機屋で困るような事情があるらしい。佐野さんは、初めはお蝶をなだめ賺すようにしてあしらっている様子であったが、段々深くお蝶に同情して来て、後にはお蝶と一しょになって、機屋一家に対してどうし・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫