・・・ろう、どうかして泣かせてやろうと擽ったり辛子を甞めさせるような故意の痕跡が見え透いたら定めし御聴き辛いことで、ために芸術品として見たる私の講演は大いに価値を損ずるごとく、いかに内容が良くても、言い方、取扱い方、書き方が、読者を釣ってやろうと・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・此一面より見れば愚なるが如くなれども、方向を転じて日常居家の区域に入り、婦人の専ら任ずる所に就て濃に之を視察すれば、衣服飲食の事を始めとして、婢僕の取扱い、音信贈答の注意、来客の接待饗応、四時遊楽の趣向、尚お進んで子女の養育、病人の看護等、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 日本プロレタリア作家同盟は、婦人作家をこめて正しい線に立つ全プロレタリア作家がその文学活動においてこれまでは大衆の半数者としての婦人の闘争の注意深い取扱いをやや見落していたことを厳しく自己批判した。この立ちおくれを急速にとりかえし、プ・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・ 日本では両性の問題は実に不運な取扱いを受けつづけてきた。社会のあらゆる生活の隅々まで深く封建性の沁み通っている日本では、総ての人が今日寧ろ驚きをもって理解した通り、民法でさえ婦人をおそろしい差別待遇においていた。社会の現実の進み方と、・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・「彼女の生涯の大成果は、病気の科学的な取扱いに非常な刺戟を与えたことである。しかし真の科学的方法への理解は彼女に縁遠いものであった。彼女はこれまでの活動家の一人として、経験論者であった」と有名なイギリスの伝記者リットン・ストレーチーは率直に・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・大名に対する将軍家の取扱いとしては、鄭重をきわめたものであった。島原征伐がこの年から三年前寛永十五年の春平定してからのち、江戸の邸に添地を賜わったり、鷹狩の鶴を下されたり、ふだん慇懃を尽くしていた将軍家のことであるから、このたびの大病を聞い・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・これはしめたと思って大切に取り扱い庭一面に広がるのを楽しみにしていたのであるが、冬になって霜柱が立つようになると、消えてなくなった。翌年も少しは出たが、もう前の年のようには育たなかった。雨の少ない年には全然出て来ないこともある。昨年はいくら・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・しかし美のゆえに礼拝せらるべき芸術品としては、確かにパウロから不当な取り扱いを受けた。今やその不当な取り扱いは償われ、ただ芸術品としての威厳をもって人々の上に臨んだのである。 かくのごとき偶像の再興はまた千年にわたる教権の圧迫への反抗を・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・このことは四肢の無雑作な取り扱い方によく現われている。両足は無視されるのが通例であり、両腕も、この人物が何かを持っているとか、あるいは踊っているのだとか、ということを示すためだけに付けられるのであって、肩や腕を写実的に表現しようなどという意・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・これらの塑像における面相や肢体の取り扱い方は、雲岡の石像の場合とはまるで違う。ここでは意味ある形を作ることが主要関心事であって、感覚的な興味は二の次である。従って面相に現われた表情がまるで違っているように、肢体の姿、衣文の強調の仕方などもま・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫