・・・の官民の断えざる衝突に対して当該政治家の手腕器度を称揚する事はあっても革命党に対してはトンと同感が稀く、渠らは空想にばかり俘われて夢遊病的に行動する駄々ッ子のようなものだから、時々は灸を据えてやらんと取締りにならぬとまで、官憲の非違横暴を認・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・「大阪曾根崎署では十九日朝九時、約五十名の制服警官をくり出して梅田自由市場の煙草販売業者の一斉取締りを断行、折柄の雑沓の中で樫棒、煉瓦が入れ交つての大乱闘が行はれ重軽傷者数名を出した。負傷者は直ちに北区大同病院にかつぎ込み加療中。・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・が、何分取締りがきびしくて、朦朧も許されず、浮かぬ顔をして、一里八銭見当の俥を走らせていたらしかったが、さすがにいつまでもそんなことをしている気のなかった証拠には、……ここらあたり、「真相をあばく」も存外誤植がすくない故、手間を略いて、その・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・「こんな調子だと、善良な人民を監獄に入れて、罪人共を外に出さなけりゃ、取締りの法がつかない」と、「天神様」たちは思わない訳には行かなかった。 だが、青年団、消防組の応援による、県警察部の活動も、足跡ほどの証拠をも上げることが出来なか・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・これはみかたによっては、減刑運動を一つのファシズム示威に応用しようとかまえている人々への無取締り通告である。その背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・その前後から雑誌や単行本に対する取締りがひどくなって、少しでも日本の軍事行動に対して疑問を示したり、戦争によって人民生活が不安にされて行くことをとりあげた文章は禁止された。一月ごとにその程度と範囲が際限なくひろがって、客観的に公平に、国際問・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・ 会計の方じゃあ、まあ、おとつあんが居なけりゃあと云われるし、取り締りの方では、恭二が年の割りに立てられて居るんだしするから…… 良吉は、「広告はよせよ、 おい、良い加減にしなきゃあ、兄さんがあてられるぜ。と・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・継いて、内務省の取締りを受けない貸家周旋人が、市内には殆ど無数あった。中には随分曖昧な、家賃一ヵ年分を報酬として請求するとか、三月分を強請されて、家はどうにか見付かったが、その片をつけるに困ったとかいう噂が彼方此方にあった。私共も、自分で探・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・そして、刑事問題をおこしている。取締りにあたる人々が、問題となっている作品を全部よまないで、好奇的に語られている部分だけよんで、告訴しているといわれている。それが事実ならば取りしまる立場の人々、自身の卑猥さがそのことにあらわれている。問題が・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・刑法は猥褻罪を規定しているから猥褻な本の取締りのためには、刑法のその条項を適宜に運用すべきである。もしかりに、漠然と公安を乱すおそれがある出版物はとりしまるというような新取締法をつくったならば、政府はよろこび勇んで、政府を批判し彼らの良心を・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
出典:青空文庫