・・・したがってかくの如き人格が道徳的評価を受けるのである。 しかしかかる評価とは、かく煙を吐く浅間山は雄大であるとか、すだく虫は可憐であるとかいう評価と同じく、自然的事実に対する評価であって、その責任を問う道徳的評価の名に価するであろうか。・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・兵卒で、取調べを受ける場合に立つと、それが如何にも軽蔑さるべき、けがらわしいことのように取扱われた。不品行を誇張された。三等症のように見下げられた。ポケットから二三枚の二ツに折った葉書と共に、写真を引っぱり出した時、伍長は、「この写真を・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・というものが杉で造られてあって、神教をこれによりて受けるべくしたものである。これらは魔法というべきではなく、神教を精誠によって仰ぐのであるから、魔法としては論ぜざるべきことである。仏教巫徒の「よりまし」「よりき」の事と少し似てはいるであろう・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・背から受ける夕日に、鶴尖やスコップをかついでいる姿が前の方に長く影をひいた。ちょうど飯場へつく山を一つ廻りかけた時、後から馬の蹄の音が聞えた。捕かまった、皆そう思い立ち止まって、振り返ってみた。源吉だった。 源吉はズブ濡れの身体をすっか・・・ 小林多喜二 「人を殺す犬」
・・・た帰り途飯だけの突合いととある二階へ連れ込まれたがそもそもの端緒一向だね一ツ献じようとさされたる猪口をイエどうも私はと一言を三言に分けて迷惑ゆえの辞退を、酒席の憲法恥をかかすべからずと強いられてやっと受ける手頭のわけもなく顫え半ば吸物椀の上・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・毎朝の新聞はそれで配達を受けることにしてある。取り出して来て見ると、一日として何か起こっていない日はなかった。あの早川賢が横死を遂げた際に、同じ運命を共にさせられたという不幸な少年一太のことなぞも、さかんに書き立ててあった。またかと思うよう・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・小説を書かなくたって名士の扱いを受ける道があったでしょう。殊にお金は、他にもうける手段は、いくらでもあったでしょうに。 立身出世かね。小説を書きはじめた時の、あの悲壮ぶった覚悟のほどは、どうなりました。 けちくさいよ。ばかに気取って・・・ 太宰治 「或る忠告」
・・・ そこへ行けば、精神上の修養を心掛けていると云う評を受ける。こう云う評は損にはならない。そこには最新の出来事を知っていて、それを伝播させる新聞記者が大勢来るから、噂評判の源にいるようなものである。その噂評判を知ることも、先ず益があって損・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 明日はおれは処刑を受ける。おれはヨオロッパのために死ぬる。ヨオロッパの平和のために死ぬる。国家の行政のために死ぬる。文化のために死ぬる。 襟は遺言をもって検事に贈る。どうとも勝手にするがいい。 故郷を離れて死ぬるのはせつない。・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ アインシュタインは「芸術から受けるような精神的幸福は他の方面からはとても得られないものだ」と人に話したそうである。ともかくも彼は芸術を馬鹿にしない種類の科学者である。アインシュタインの芸術方面における趣味の中で最も顕著なものは音楽であ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫