・・・もっともあの娘の始めの口振りじゃ、何でも勤人のところへ行きたい様子で、どうも船乗りではと、進まないらしいようだったがね、私がだんだん詳しい話をして、並みの船乗りではない、これこれでこういうことをする人だと割って聞かしたものだから、しまいには・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ とやはり私が、はじめからこうしてかえって来るのを見越して、このお店に先廻りして待っていたもののように考えているらしい口振りでしたから、私は笑って、「ええ、そりゃもう」 とだけ、答えて置きましたのです。 その翌る日からの私の・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・昔の先生の講義の口振り顔付きまでも思い出されるので驚いてしまった。「しろうるり」などという声が耳の中で響き、すまないことだが先生の顔がそのしろうるりに似て来るような気がしたりするのである。 もう一つ気の付いて少し驚いた事は、『徒然草』の・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・ いやに老練な法律家の口振りを真似た様な、体につり合わない声や言葉で云った。「必ずどうかする」と云った言葉を手頼りに、栄蔵はせっせと、鼻つまみにされるほど通って居た。 もうこうなっては根の強い方が勝つんやから。 ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 祖母は年柄ではさぞ信心っぽい人の様だけれ共案外で別に之と云う宗教も持って居ないので、私達のところへ来ると熱心に「あみださま」の講釈をする。 口振りでは、彼の世に、地獄と極楽の有る事を信じて居るらしい。一体、村の風で非常に信心深い村・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・と、さながら人民に現在の社会悪の責任があるかのような口振りである。けれども、静かに思いめぐらした時、これらの復員軍人が秩序を紊す行動をする、その奥の奥の原因は果して何処にあるだろうか。この間、元特攻隊員が中心となって集団的な強盗をし、検挙さ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫