・・・この前後伊豆大島火山が活動していた事が記録されているが、この時ちょうど江戸近くを通った台風のためにぐあいよく大島の空から江戸の空へ運ばれて来て落下したものだという事がわかる。従ってそれから判断してその日の低気圧の進路のおおよその見当・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・例えば二百十日に颱風を聯想させたようなものかもしれない。もっとも二百十日や八朔の前後にわたる季節に、南洋方面から来る颱風がいったん北西に向って後に抛物線形の線路を取って日本を通過する機会の比較的多いのは科学的の事実である。そういう季節の目標・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・雨春と冬との変りめ生暖い二月の天地を濡し吹きまくる颱風。戸外に雨は車軸をながし海から荒れ狂う風は鳴れど私の小さい六畳の中はそよりともせず。温室の窓のように若々しく汗をかいた硝子戸の此方にはほのかに満開・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・辰野 福田さんの「キティ颱風」だって、現代の馬鹿囃でしょう。獅子 「キティ颱風」でコミュニストが笑われていることに気のつかない見物人がいるのにはビックリしてしまったです。福田 英雄だと思って居りますよ。獅子 そうらしい。・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ だが、芸術の本質からいまの文学のゆがみを照し出そうとするその企ての第一着である「キティ颱風」は、自他ともにあれでは駄目なものと考えられ、「芝居というものはあんなものでは困ると思う」と座談会で語られて、その言葉は笑声とともにうけがわれて・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
出典:青空文庫