・・・たとえば、ある一つの現象がたくさんの因子の共存的効果によって決定される場合に、いかにして各個の因子の個々の影響を分析すべきかというような問題に対するいろいろの方法が示されている。そういう場合にこの方法の中から、あらゆる具体的なものを取り去っ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・第一に種々の個体の集団からできた一つの系を考える時、その個体各個のエントロピーの時計の歩調は必ずしも系全体のものの歩調と一致しない。従って個体相互の間で「同時」という事がよほど複雑な非常識的なものになってしまう。しかしそこにまたこの時計の妙・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・ 人間のごとき最高等な動物でも、それが多数の群集を成している場合について統計的の調査をする際には、それらの人間の個体各個の意志の自由などは無視して、その集団を単なる無機的物質の団体であると見なしても、少しもさしつかえのない場合がはなはだ・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・紙の尺度や竹の尺度などを比較させて見るもよかろうし、また十グラムの分銅二つと二十グラムの分銅一つとを置換して必ずしも同じでない事を示し、精密なる目的には尺度の各分劃、分銅の各個につき補正を要する事や、温度による尺度の補正などの事も、少なくも・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・もし各個の質量が同一で間隔も同一ならば、これらの引力の総和は丁度前に出した収斂級数で表わされ従って有限なものになる。もしも重力が距離の自乗に反比例せずして距離自身に比例するのであったら結果は収斂しないのである。 もし物質間の引力が距離に・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ ――「欠陥の基本的なものは組織的活動の微弱なこと、連絡がプロレタリア作家乃至革命的作家団体間に強く行われないで、むしろ各個人間に行われて来たことである。国際局の機関雑誌『外国文学時報』も亦大きな欠点をもっている。これは直に改革して世界・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・それは、予備条件として在来の社会機構から生じた各個人間の極く平俗な生存競争の必然を認めつつ、だが、窮極のところ、人生の意義というものは、人間対人間の目前の勝敗にあるのではない、「持って生れたものを誤らないように進めてゆく、それが修業」であり・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
独断 芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従って個性を異にするわれわれの感覚的享受もまた、各個の感性的直感の相違によりてなお一段と独断的なものである。それ故に文学上に於ける感覚・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫