・・・宰相君よりたけを賜はらせけるに秋の香をひろげたてつる松のかさいただきまつるもろ手ささげて これも前の歌と同じく下二句軽くして結び得ず。羊腸ありともしらで人のせに負れて秋の山ふみをしつ これも頭重脚・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ああ罪業のこのからだ、夜毎夜毎の夢とては、同じく夜叉の業をなす。宿業の恐ろしさ、ただただ呆るるばかりなのじゃ。」 風がザアッとやって来ました。木はみな波のようにゆすれ、坊さんの梟も、その中に漂う舟のようにうごきました。 そして東の山・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ 一晩じゅう、どんなに私が体を火照らせ、神経を鋭敏に働かせ通したか、あけ方の雀が昨日と同じく何事もなかった朝にさえずり出したその一声を、どんな歓喜をもって耳にしたか、私のひとみほど近しい者だって同感することは出来まい。七時から、十二時ま・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・続いて二十二日には同じく執政三人の署名した沙汰書を持たせて、曽我又左衛門という侍を上使につかわす。大名に対する将軍家の取扱いとしては、鄭重をきわめたものであった。島原征伐がこの年から三年前寛永十五年の春平定してからのち、江戸の邸に添地を賜わ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・アフリカの民族は快活で、多弁で、楽天的であるが、しかしその精神的な表現の様式は、今日も昔も同じくまじめで厳粛である。この様式もいつの時かに始まり、そうして後に固定したものに相違ない。が、その謎めいて古い起源が我々には魔力的に感ぜられるのであ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫